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12年ぶりの上演。実力者たちが集結した、“当たり障りのある”舞台『ふくすけ』の魅力とは? 猫背椿・オクイシュージ・菅原永二 鼎談

歌舞伎町

インタビュー
劇場 東急歌舞伎町タワー 演劇
DATE : 2024.07.01
その衝撃度から“伝説”と評されるようになった、松尾スズキの代表作『ふくすけ』が“歌舞伎町黙示録”とサブタイトルを付けてリニューアルし、12年ぶりに蘇る。しかも、作品の舞台である歌舞伎町にそびえ立つ東急歌舞伎町タワー内のTHEATER MILANO-Zaで上演されるというのだから、これは見逃せない。

1991年の初演から、1998年の再演、2012年の再再演と、さまざまなキャストにより演じられてきたが、4度目の上演となる今回は、過去2回フクスケ役を演じていた阿部サダヲがかつて松尾自身が演じていた警備員のコオロギ役に扮し、松尾の舞台には初参加の黒木華、岸井ゆきの、松本穂香がそれぞれに物語の大事な鍵を握る役(黒木はコオロギの妻で盲目のサカエ、岸井はタイトルロールのフクスケ、松本はホテトル嬢のフタバ)を演じるという、新鮮かつ魅力的な顔合わせが実現する。

その華やかで個性派ぞろいのキャストの中から、松尾作品に馴染み深く信頼も厚い猫背椿、オクイシュージ、菅原永二に作品の魅力や各キャラクターの面白さ、今回のリニューアル版への想いなどを語ってもらった。

ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録

松尾スズキ作・演出により、1991 年に悪人会議プロデュースとして初演、98 年には松尾が悲劇をテーマに作品を創り上げる「日本総合悲劇協会」公演で再演、そして 2012 年にBunkamura シアターコクーンで再再演された戯曲。薬剤被害によって障がいを持った少年フクスケをめぐり、さまざまな境遇の登場人物たちが、底なき悪意と情愛に突き動かされながら、必死にもがき生きる姿を毒々しくも力強く描く。12 年ぶり4 度目の上演となる本公演では、サブタイトルを“歌舞伎町黙示録”と題し、台本をリニューアル。フクスケが入院する病院の警備員コオロギと、盲目のその妻サカエの夫婦を軸に、物語が展開する。

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12年ぶりの公演について、3人それぞれが感じる変化

― 『ふくすけ』の初演は1991年、1998年の再演時には猫背さんが参加され、2012年の再再演にはオクイさんが参加されていて、今回初めて菅原さんが参加されることになりました。みなさんそれぞれ、この作品のどういうところに魅力を感じていますか。

猫背:そもそも、この『ふくすけ』はとにかく当たり障りのある内容で(笑)。キャラだちがすごい人物ばかりなのに、それに負けない実力者のキャストを揃えてくる公演だなと思っています。今回も、あのすごいキャラの登場人物たちを軽々と超えていく方々が稽古場に大勢いらっしゃるので、とてもドキドキします。

オクイ:僕は、悲しい人しか出てこない物語だなと思っています。確かに猥雑だったり暴力的だったりもするんですけれども、根本には出てくる人みんなが悲しい。そして、腹の底であんたは本当はそう思っているんじゃないの? みたいなことを、さらけ出していく物語でもある。そういった汚れとか悲しさとかが、僕にとってはとても魅力的に映るんです。

菅原:僕は今回初めて参加させていただくのですが、以前の公演は映像で拝見していまして……。

猫背:どの公演を観たんですか?

菅原:猫背さんが出られていた公演でした。

猫背:おおー。じゃ、2回目の『ふくすけ』ですね。

オクイ:なんで俺が出ていた3回目は観に来てくれなかったの?

菅原:いやあ、公演が重なってたか何かで劇場に行けなかったんです。あと、初演の映像も少しだけ観ました。

猫背:ああ、フクスケ役の温水(洋一)さんの顔にモザイクがかかっていて、セリフもピー音で消されているヤツね(笑)。

菅原:もう、ほとんどがピーでした。

猫背:何やっているのかわからないけど、すごさだけは伝わるよね。

菅原:もし自分が出ていたらと想像すると、おっかないな、若い子も出ているけどみんなよくできるな、なんて思っていたんですけど(笑)。実際に稽古に参加してみて、ああ、こういうことなんだ! って思いながら日々過ごしています。ものすごいエネルギーをぶつけられている感覚がありますね。

― 個性派だらけのキャラクターが大勢登場してきますが、みなさんが演じられるキャラクターを含め、作品の登場人物たちについての想いを伺わせていただきたいです。

猫背:まず今回は、フクスケ役が岸井ゆきのさんになります。私は初演から全部観てきているんですが、最初のフクスケは温水さんで、悲しいピカレスクヒーローみたいな感じの役でした。子どもなんだけど、いろいろすごいこともやらかすし。温水さんのキャラや見た目も相俟って“キモカワイイ”印象がありました。

それが再演、再再演で阿部(サダヲ)さんになると、“キモ”がだいぶ薄れたポップな可愛さに変わってきて。そして今回のフクスケは、完全にめちゃめちゃ可愛い! もう、岸井さんが可愛くて可愛くて、稽古中もうっとりしちゃうくらいです。可愛い~、連れて帰りたーいって思いながらいつも見ています(笑)。

オクイ:自分は前回コオロギ役をやらせていただいていたので、阿部くんが今回初めてコオロギを演じている姿を見ていると、出方とかイメージとか捉え方が全然違うので本当にすごく面白くて。前回は12年前でしたから、出演者にも松尾さんにも変化があるのは当然なんですけどね。

12年前、自分が演じたときの印象で言うと、コオロギはテンションがトップスピードだった記憶があるんです。だけど今回、松尾さんが求めるものはトップではあるものの、それを腹の中に収めた上で表現してほしいと言っているような気がするので、そのあたりが大きく違うなと感じています。

猫背:そうね、確かに。

菅原:コオロギ役で言うと、昨日観た映像では松尾さんが演じていて。きっと三者三様のコオロギなんだろうなと思うから、オクイさんのコオロギ役も観てみたかったな……。

オクイ:なんで観てないんだよ! せっかくこの三人で取材受けてるってのに!!

猫背:そうよ、なんで観てないの!(笑)

菅原:12年前の『ふくすけ』はビデオとか資料が手に入らなかったんですよ! それより今回の荒川(良々)さんのヒデイチ役、ものすごくないですか。

オクイ:そう、荒川くん、すごくいいよね。

猫背:最初にキャスティング表がマネージャーから送られてきた時点で、そうそう! って納得する配役ばかりだったんだけど、ホント、今回のヒデイチはすごいと思う。

オクイ:秋山(菜津子)さんのマスもね。

菅原:ヤバイ!

猫背:ホントそう!!

オクイ:これまでとは全然違う怖ろしさがあるというか。表立って怖ろしさを出していないじゃないですか。マスだけでなく、コオロギやサカエもそうだし、そしてフクスケはむしろ可愛らしくなってる分、なんだか逆にさらに怖くなっている。

猫背:潜んでいる分、怖さが増している。

菅原:可愛らしさがあるのにそれでいて冷静に人を見ていたりする様子がうかがえる。ゆきのちゃんのフクスケの内側におっかない部分があるのが見えてくるんですよね。あの、ちょっといたずらっぽい目を見ただけで、うわーって思っちゃう。

オクイ:そういう雰囲気になっているからか、俺、今回のコズマ三姉妹もなんだかすげえ気持ち悪いなと思っていて。

猫背:衣裳もめちゃめちゃ仰々しくて。シェイクスピアのセリフ回しみたいなところもあるから、なんだか芝居芝居しているんですよね。他の人たちはわりとナチュラルな演技なのに。

オクイ:もともと異物ばっかりなんだけど、異物の中のさらに異物という感じ。面白いことに、その見た目とか芝居の位置どりも、本当にシェイクスピアっぽいやり方になっているんですよ。

猫背:この間、オクイさんにそう言われて「へえ、そういうもんなんだ!」って初めて思いました。私は松尾さんに言われた通りに動いてるだけなんだけど、オクイさんはシェイクスピアのご経験もあるし、ちゃんとお勉強してらっしゃるから。

オクイ:その言い方、やめてよ(笑)。

猫背:それで「これはシェイクスピアの動きだ!」っておわかりになって。

オクイ:いや、ただ、自分が今回やってる役がまさにそうなんだけど、位置どりってしっかりやらないと全体のバランスが崩れるんですよ。だから一緒の場面に出ている猫背ちゃんや伊勢さんが動いたりするときは、やりながら俺がちょっと移動して舞台のバランスをとっていこうとしているんだけど、そのときにたまたま「あ、これってシェイクスピアの作品をやっていたときと似てるな」って気づいただけなんです。

菅原:ちょっと僕も、今日から意識して観察してみます。

オクイ:永二は、そんなこと考えなくていいよ(笑)。

猫背:今回の永二くんの役ってその場にしかいないというか、その後1回も出てこない役が多いよね。

菅原:そうなんです。これまでの『ふくすけ』には出ていないキャラクターだったりもするし、その一瞬で消えてしまう役が多い。一応、赤瀬川という宗教団体の顧問の役がメインの役になると思うんですけど、まだ稽古に登場してきていないので具体的な役づくりはこれからですね。あとは冒頭のシーンにも出ていて。

― コオロギとサカエの出会いの場面にいる人物ですね。

菅原:師匠をオクイさんが演じて、その二番手の師範代です。虎視眈々と一番手を狙っている設定なんですが、その後はもう出てこない。

猫背:この人の物語が始まるのか? って表情だったりもするのに、二度と出てこないという(笑)。そこが面白い。でもその冒頭のシーン、本当にこのお二人がカッコイイんですよ。

― 初登場のキャラですね。

オクイ:そうです。だけど今回は、そのコオロギとサカエの二人が出会うきっかけとなる新しいシーンを冒頭にやるので、この物語のテンションや勢いを最初に表現しなければいけない役回りなんだろうな、と覚悟して演じています。だから俺はまず冒頭の5分で、一旦燃え尽きます。

猫背:もうね、お客さんに向けて「喰らえ!」って感じでやってますよね。

菅原:猫背さん、この間「部活が終わった後みたいだね」って言ってましたね。

猫背:そうそう。みんなの、ハァッ、ハァッ! ってなってる空気感が壮絶だったから(笑)。

― その時点で、お芝居が一本終わった感じになっていた?(笑)

猫背:そうなんです。本編はそこから始まるのに。あそこも非常にカッコイイな、パンクだなって思っています。

松尾作品に出演することの緊張感

― オクイさんと猫背さんはそれぞれ、前回と前々回の『ふくすけ』では違う役をやられていて、今回は同じ物語でもそれとは別の新たな役に取り組むことになるわけですが。

猫背:私は、26年前の『ふくすけ』ではミッチィというヒロミの彼女の役だったので、時が経ったからもうその役はやらせてもらえないんだなって思いました(笑)。今回はコズマ三姉妹の長女・エツ役ですが、松尾さんからは「とにかく小物感が出ないように」と言われています。だから、歌舞伎町で成り上がっていった女、みたいなイメージでやっています。

オクイ:僕は前回コオロギ役だったんですが、それまでは松尾さんがやっていた役でもあって。12年前だと僕は演劇から離れていた時間が長かったりもしたので、お客さんにとってはきっと「おまえ、何者?」みたいな存在だったはず。そんなヤツをいきなり松尾さんは重要な役にぶつけてくれたんです。その信頼に応えなければ! という想いはもちろんありましたし、シアターコクーンに出るのはそれが初めてだったからそのプレッシャーもありました。

松尾さんが演じていたコオロギをなぞってしまうのも怖かったから、以前の舞台映像は一切見ずにやっていましたね。あと、今回もうひとつの役、蒲生は前回まで違う役名だったのを、松尾さんが設定を初老にしたいということで。

猫背:それは、オクイさんがトシだから?

オクイ:それもあるんじゃないですかね。

猫背:だってあの役、最初は二枚目がやるイケメン枠だった印象があるのに。

オクイ:あ、そうなの? だとしたら俺、ちょっと傷つくじゃない。

猫背:イケメンだけど時が経ったんだ、ということか(笑)。

オクイ:トシのことばかり言うなよ!(笑) でも前回とは違う作り方をしているし、コオロギをやっていたときにはできなかったんだけど、今回は全体を俯瞰で見ながら演じることもできつつあって。その点では、とても稽古が面白いです。今回はあまり感情をバーンと表に出す役ではないところも、楽しんで演じることができています。

― 菅原さんは、松尾作品に参加することが役者としてのターニングポイントになったようにも見えますが。

菅原:まさに、そう思います。最初にお話をいただいたときは夢のようでした。だけど、稽古開始が近くなるにつれ緊張感がピークになっていって、顔合わせの時点では記憶がないみたいな状態で(笑)。テレビで見たことがある人ばかりの場所だから、なんだか自分は身体を離れて上のほうから全体を眺めているような気分で……。

猫背:幽体離脱してるみたいに?(笑)

オクイ:ああ、それ、わかる。12年前は俺も確か「芸能人ばっかりだ!」と思ってましたからね。でも、今回は、もうなかったでしょ?

菅原:いえ、今回もちょっとありました。名前を呼ばれた瞬間に、スン! って戻ってくる。

猫背:浮遊していた魂が(笑)。

菅原:最後のほうには緊張も薄れてきて楽しめるようになり、自分でもひとまわり成長できたかなとか思ったりもするんですけど。しばらく経ってまた呼んでいただけると、また緊張して最初の状態に戻る感じなんですよね。だけど、本当に松尾さんの作品に出るということは、精神的にもビルドアップできるような気がしています。

― 特に、本番に向けて楽しみに思っていることがあれば教えてください。

猫背:私は、自分が出ている以外の、まだ稽古をしていないシーンを早く見たいです。

オクイ:今は稽古の序盤だから、セリフもあやふやなところもあるんですね。それが全部頭に入ると自由になって、解き放たれた状態で芝居ができるようになるので、そこに至るのが楽しみですね。あとは、永二が最終的に何役やることになるのか、ということ。

猫背:後半になって役が増えてくる可能性、ありそうだね(笑)。

菅原:いやいや、増えないでしょ。

オクイ:まだ台本にはキャスト名が書かれていない役がいっぱいあるから、そのほとんどが菅原永二になるかもしれない。

猫背:ホント、そうなったらカッコイイだろうなあ(笑)。タイミング的にこれならできるとか、台本にマルしておいたほうがいいよ。

菅原:いやいやいや!(笑) 僕が楽しみなのは、松尾さんの作品って、観ているお客さんたちももちろんですけど、演じている側も本番は毎回すごく高揚するんですよ。自分でもそれでパワーアップして「ちょっとカッコイイんじゃないか、これ」って思いながらやっていて。

猫背:「カッコイイ、俺!」って思いながらやってるんだ?

菅原:違いますよ、「この作品がカッコイイ!」ってことですよ!(笑)

物語の舞台にもなっている歌舞伎町との思い出は?

― 今回、物語の舞台はまさに新宿、歌舞伎町です。みなさんは歌舞伎町というとどんな思い出がありますか。

猫背:私が大人計画に入った頃は、「新宿シアタートップス」という劇場でよく芝居をしていたので、その打ち上げがいつも歌舞伎町だったんです。芝居が終わるとバラシをして、朝まで歌舞伎町で始発まで飲んでました。

菅原:僕は昔、新宿の東口にあるお店で働いていた時期があったんですけれど、歌舞伎町に行くことはほとんどなかったですね。靖国通りから向こうは危険なゾーンだというイメージでした。だから、系列の歌舞伎町店で働いている人たちは、ちょっと一目置かれている感じがありました(笑)。

オクイ:僕もあまり歌舞伎町には行かないけど、昔、コメディ専門の映画館が歌舞伎町にあったので、そこにはしょっちゅう行ってました。あとは、歌舞伎町でキアヌ・リーヴスとすれ違ったことがあります。

猫背:え、ウソ? 絶対本物?

オクイ:本物。ちょうど『マトリックス』のプロモーションの頃で、黒ずくめの外国人SPに囲まれたキアヌ・リーヴスがペコペコしながら歩いてた。

猫背:ペコペコしないでほしい~、キアヌ!(笑)

オクイ:っていう思い出が、歌舞伎町にはあります。だけど今回、芝居の背景が絶対にイメージしやすいよね。いかにもすぐ近くの歌舞伎町の路地から、エツとか出てきそうじゃない。

猫背:うん、目に浮かぶね。ホント、みんな揃ってゾロゾロ出てきそう!(笑)

公演日程:2024年7月9日(火)~8月4日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)
東京公演・企画・製作:Bunkamura
チケット料金:S席12,000円/A席9,500円(税込・全席指定)
URL:OFFICIAL SITE / THEATER MILANO-Za

文:田中里津子
写真:是永日和

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