本公演では、舞踊『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』『流星』、そして落語「貧乏神」を題材にした新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』が上演される。
また4月28日(日)には、出演俳優による「お練り」と「舞台挨拶」 も。そうした準備期間の最中、この舞台にかける想いについて、中村勘九郎さんに伺った。
ちなみに、取材当日は宣伝ビジュアルの撮影があり、レアなホスト風の姿での登場となった。理由が気になる方は、会場で販売される公演パンフレットを確認してほしい。
中村勘九郎
歌舞伎俳優
1986年1月、歌舞伎座「盛網陣屋」の小三郎で波野雅行の名で初お目見得。1987年1月、歌舞伎座「門出二人桃太郎」の兄の桃太郎で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。2012年2月新橋演舞場『土蜘』の僧智籌は土蜘の精、『春興鏡獅子』の小姓弥生後に獅子の精ほかで六代目中村勘九郎を襲名。歌舞伎以外にも映画、テレビなど幅広く活躍している。主な出演作に映画『禅 ZEN』『清須会議』『銀塊』シリーズなど。
勘九郎さんの記憶に残る新宿
― 勘九郎さんは新宿という街に対して思い出はありますか?
今でも記憶に残っているのは、父に連れられて観に行った花園神社のテント芝居ですね。子どもながらにものすごく衝撃を受けまして、今でも通っています。
あとは伊勢丹。義母が大好きで。なかでも地下のお惣菜コーナーは、行ったら最後ですよね。こんなに食べられないだろうと思っていても、ついつい買ってしまう。あの魔力は何なんでしょう(笑)。
― 確かに目移りしますよね。
そういえば、二十代の頃は友人たちと歌舞伎町でよく飲んでいました。一番街のアーチを抜けると飲み屋さんが何軒もひしめき合っているじゃないですか。あの雑然とした雰囲気のなかで昼も夜も大勢の人がいて、本当に眠らない街なんだなと思った記憶があります。僕、小説家の大沢在昌さんが大好きで、いつも読んでいた「新宿鮫」シリーズの舞台でもあるから、小説の世界に入り込んだ感覚で楽しんでいました。
― 小説なり漫画なり、新宿は物語になりやすい街ですよね。そういう場所で歌舞伎を上演することに対して何か思うことはありますか?
特別な感慨はないんですけれど、もともと歌舞伎の劇場を誘致するために「歌舞伎町」という名前が付けられた歴史があるわけで、そういう場所で公演ができることはワクワクしますよね。
これを機にご縁が深くなって定期的に開催できるようになると、より多くの方々に観ていただけるようになるんじゃないかなって。そうすれば、若い歌舞伎俳優たちの新たな発信の場になるかもしれませんよね。いずれにせよ、今回の第1回公演の成功が鍵になると考えています。
親子で臨む舞踊『流星』。子どもの成長が楽しみ
― 『流星』では、長男の勘太郎さん、次男の長三郎さんとも共演されますよね。なぜこの演目にされたのでしょうか。
『流星』はオーソドックスな古典の踊りで、歌舞伎座のような日常的に歌舞伎の公演がある場所でかかる演目なんですね。それを歌舞伎町という初めての場で披露することで、どんな化学反応が起きるのかを見てみたかったんです。
― 稽古をするなかでお子さんの成長を感じる瞬間も多いですか?
そうですね。日に日に大きくなっていて、長男の勘太郎はもう165cmくらい身長がありますから。あっという間に僕も抜かされてしまうんでしょうね。
次男の長三郎も、今年の2月に『連獅子』という中村屋が大切に継承してきた演目で仔獅子を勤めまして、舞台や稽古に対する考え方が変化したように思います。
そうやって子どもたちの変化を日々感じ取れるのは楽しいですね。
― 今回の公演も強く思い出に残りそうですね。
子どもの時分はこの瞬間にしか見られないですからね。変化の過程にある彼らの姿にも、ぜひ注目していただければと。
新作歌舞伎ならではの新機軸を見せられたら
― 新作歌舞伎『福叶神恋噺』は、小佐田定雄さん原作の落語『貧乏神」が題材になっています。しかも、小佐田さん自身が脚本を手掛けられるそうですね。勘九郎さんは過去に『廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらざと)』と『心中月夜星野屋(しんじゅうつきよのほしのや)』という作品で二度ご一緒されていますが、どのような印象を持っていますか?
『廓噺山名屋浦里』は(笑福亭)鶴瓶さんが口演した新作落語「山名屋浦里」が題材になっていまして、寄席に聴きに行ったときに歌舞伎の舞台にするインスピレーションが頭のなかにぐわっと湧いてきて、すぐにでもやりたいと直談判して実現したものなんです。それで小佐田先生に脚本を手掛けていただいたのですが、僕がイメージしていたことを的確に表現してくださったので、安心感がありますね。
― 勘九郎さんは、主人公たちを陰ながら見守る「貧乏神すかんぴん」を演じられますが、現時点でどのようなことを考えていますか?
今作は(中村)七之助と(中村)虎之介くんの二人が中心なので、彼らの魅力を最大限に生かすために全力でサポートしたいと考えています。
落語は一人喋りであることが魅力のひとつですよね。お客さま一人ひとりのイマジネーションに委ねる部分も多い。それを歌舞伎では、複数の人間が動きで見せていくことになるので、舞台にしたときのバランスは意識して調整しないといけないなと。
せっかく新作をやるわけですから、何か新機軸がある舞台にしたいですよね。でなければ、ただの古典の喜劇のように映ってしまうので。そのあたりのことは、七之助と虎之介くんの二人と稽古をしながらブラッシュアップしていく予定です。今を生きる歌舞伎俳優たちによる、今の歌舞伎を見せられたらと思います。
― 確かに、今を生きる人たちの手によって作られる歌舞伎作品は滅多に観られるものではないですよね。
そうですね。しかも、それを歌舞伎町という場所で生み出せることを僕も誇りに思いますし、来てくださったお客さまには存分に楽しんでいただけるように一生懸命取り組みたいと考えています。初演は一度きりですから。
それに今回の公演は、歌舞伎に馴染みのない人でも十分に魅力を感じ取れる内容になっていると思うんです。伝統に根付いた古典舞踊がある一方で、落語をベースにした新作歌舞伎もある。その振り幅を満喫していただければと。
― THEATER MILANO-Zaという舞台を通して、勘九郎さん自身も何かしらインスピレーションを受けるかもしれませんよね。
それは十分にあります。僕自身、THEATER MILANO-Zaという場に初めて立てることをすごく楽しみにしています。やっぱり普段とは環境が違えば、見え方も楽しみ方も変わりますから。その違和感とドキドキ感の両方を、僕だけでなくお客さまにも体験していただきたいですね。
THEATER MILANO-Za公式サイトにて、同じく出演する中村七之助さんの記事を公開中▼
中村七之助さんのインタビュー記事はこちら
『歌舞伎町大歌舞伎』
公演日程:2024年5月3日(金・祝)~5月26日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)
主催:松竹株式会社、Bunkamura、TST エンタテイメント
製作:松竹株式会社、Bunkamura
チケット料金:1等席13,500円/2等席8,000円/3等席4,000円(税込・全席指定)
チケット販売:Bunkamura
スタイリスト:中西ナオ
ヘアメイク:林 摩規子
文:村上広大
写真:鈴木渉
Tシャツ:11,000円(ジュンハシモト/junhashimoto OMOTESANDO)
ジャケット:49,500円(コロノジカ)
ネックレス:27,500円(ノース ワークス/HEMT PR)
バングル:66,000円、16,500円(ノース ワークス/HEMT PR)
スクエアリング:75,900円(マフ)
ストーンリング:108,900円(マフ)
その他:スタイリスト私物
【お問合せ】
junhashimoto OMOTESANDO(03-5414-1400)
HEMT PR(03-6721-0882)
スタイリスト:中西ナオ
ヘアメイク:林 摩規子
文:村上広大
写真:鈴木渉