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3月31日開幕の舞台『ハザカイキ』│初日レポート

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DATE : 2024.04.01

人間が心の奥底に隠している欲望や本音、弱さや醜悪さ、そして滑稽さを、徹底したリアリズムの手法であぶり出す――観客を挑発するような「問題作」「衝撃作」を次々と送り出してきた三浦大輔3年ぶりの新作が、新宿歌舞伎町のTHEATER MILANO-Zaで開幕した。

国民的人気タレント橋本香(恒松祐里)

国民的人気タレント橋本香(恒松祐里) 

 主人公は、芸能記者の菅原裕一(丸山隆平)。彼が担当することになったのは、国民的人気タレント橋本香(恒松祐里)と人気アーティスト加藤勇(九条ジョー)の熱愛疑惑だ。このスクープをリークしたのはなんと、香の友人・野口裕子(横山由依)だった。菅原には同棲している恋人・鈴木里美(さとうほなみ)と、親友・今井伸二(勝地涼)がいる。菅原は里美との生活に安らぎを得、今井には仕事の愚痴をこぼしたりとごく普通に過ごし、そんな平和な日常が続いていくと信じていた。

菅原裕一が同棲中の恋人・鈴木里美(さとうほなみ)

香の友人・野口裕子(横山由依)

 香の父である橋本浩二(風間杜夫)はもともと人気俳優であったが、今は引退し、芸能事務所の社長として香のマネージャー田村修(米村亮太朗)とともにマネージメントをしている。浩二は香がまだ幼いころに不倫をスクープされて芸能界から姿を消した過去があり、その経験から香がスキャンダルを起こさないよう目を光らせている。浩二と離婚した香の母・智子(大空ゆうひ)は元女優で、現在スナックのママとして働いている。

 スナックのママとして働く香の母・智子(大空ゆうひ)

 ある日、勇がとある不祥事で芸能界を追放され、事態が急変する。勇との熱愛をスクープされた香にも芸能人としての危機が訪れ……。

口論になる香とその恋人の加藤勇(九条ジョー)

熱愛報道について確認する香の父・橋本浩二(風間杜夫)と香のマネージャー田村修(米村亮太朗)

今作の舞台は、芸能界、マスコミの世界である。高級住宅街で人目を気にしながら身体を寄せ合う“芸能人”、それを暗闇からカメラで狙う菅原が登場する冒頭は、密会現場を目撃するような生々しさ。好奇心をかき立てるオープニングから観客は、瞬時のうちに、丸山が演じる芸能記者と俗っぽい“共犯関係”を結んでしまっている。だがこの後すぐに描かれるのは、菅原と里美による同棲生活。2種類の男女の時間、どこにでもありそうな他愛ないやりとりが並んでハタと気づくのは、「芸能人だろうが一般人だろうが、人間関係に起こる感情に大きな違いなんてないのかも」という、当たり前の事実だったりもする。当然タレントにだって、ごく普通の日々があるのだ。

香を追う芸能記者の菅原裕一(丸山隆平)とその友人の今井伸二(勝地涼) 

ギラギラとした出世欲というよりも、ある意味淡々と、割り切って仕事をこなす菅原のスクープ記事によって、香と勇、そして彼らを取り巻く人々の人生はかき乱される。既視感ある「スキャンダルあるある」のような場面の応酬、メディアやSNSに飛び交う無責任な誹謗中傷は、彼らの精神をさらに追い詰めてゆく……。「芸能人って大変だなあ」と対岸の花火を見つつ、不思議と胸の奥からわき出るのは、追い立てられるように“アップデート”を迫られ、葛藤する登場人物たちへの感情移入――。目まぐるしく変化していく時代の価値観に振り回される現代人で、ここに描かれていることが「無縁」と言い切れる人はいないだろう。野次馬根性(これもやはり人間の持つ本能である)と“他人事ではない”を行ったり来たりさせる仕掛けが巧みに随所に仕掛けられ、舞台と客席が地続きになっていくこの趣向は三浦作品の真骨頂。後半には、この手法の極め付けのような場面が展開するが、ここは「観てのお楽しみ」とさせてもらおう。

 母・智子(大空ゆうひ)の営むスナックに訪れた香(恒松祐里)

 いろいろなバックグラウンドを持ち、現在進行形で芸能界のど真ん中で活躍する演じ手たちが、こうした物語を演じるスリリングな“虚実皮膜感”も、目の前で行われていることのリアリティを増進させる。記者としての緊張感みなぎるプロフェッショナルの顔、親友や恋人とリラックスした時間を過ごす平凡な顔、人生のどん底を味わう男の顔――多面的な表情と感情、心の揺れや動きを、丸山隆平はド直球で演じ抜く。演じ方によっては“ワルモノ”になりそうな役だが、彼のウソのない真摯な演技によって、人間の弱さと愛おしさしさが浮かび上がった。そんな菅原と、「ある思い」を抱えながらつるむ親友・今井を演じたのは勝地涼。場面ごとに淡く表情を変える複雑な役柄を繊細に積み上げつつ、笑いを誘うしょうもない男同士のやりとり、コミカルな演技もしっかり見せる。“国民的アイドル橋本香”を見事体現する恒松祐里には、大きな見せ場が……。詳細は伏せるが圧巻、乞うご期待。自然体の中に温度が伝わってくる演技のさとうほなみ、芸人らしい絶妙な間と笑いと哀愁を見せる九条ジョー、三浦作品の常連として的確に役を掴まえる米村亮太朗、負の感情を煎じつめた役をきちんとハラに落とした横山由依、一人の女性の人生を言葉と佇まいに滲ませる大空ゆうひ……。そして、昭和の価値観の権化のような男を、大きく哀しく、ドラマチックに魅せまくる風間杜夫、風間杜夫!(大事なことなので2度言いました) 登場人物それぞれの切実さと葛藤が錯綜する、とことん人間くさい群像劇が力強く舞台から迫ってきた。個性的なスナック従業員役の日高ボブ美と青山美郷、弁護士などを演じた松澤匠、若手記者などを演じた川綱治加来らも、限られた登場場面でそれぞれの人生を濃くきちんと演じきる。

今井伸二(勝地涼)と菅原裕一(丸山隆平) 

現代社会を人間ドラマとして多角的に切り抜き、しっかり撚り合わせて描き切る胆力と、最初から最後まで観客の視線を逸らさせないエンターテイメント性、そこにゴリゴリの“演劇的思考/手法”を並走させる、演出家・劇作家の手つきにも唸らされた。今作で三浦は「人間は感情よりも理屈が先にあるのでは?」という問いを随所に据えている。前衛的な演劇でも知られる作家・安部公房はかつて「笑いなんて横隔膜のけいれん」「物語とは、因果律によって世界を梱包してみせる思考のゲームである」と語ったが、ついあらゆるものに因果(物語)を見てしまうのが人間という都合のいい生き物だ。今作は徹底的に突き放した視点で世の中を見渡し、世界と人間の無意味性を社会の事象に結びつけ、かつそれを、エンタメとして昇華した稀有な作品とも言えよう。人間存在のちっぽけさを「これでもか」と見せつけられるが、不思議と後味は爽快。

 映画監督としても活躍する三浦が、映像編集的な視点で、短い場面をどんどんスピーディーに展開させていく構成を、生で、演劇でやってのけてしまう演出にも驚いた。物語を力強く支える、音楽、美術、照明をはじめ、スタッフワークも盤石。最後に、全て人力で場面ごとの美術を動かし、この舞台の演劇的な心意気を成立させている、裏方陣のチームワークにも拍手を送りたい。

文 :川添 史子(Bunkamuraより提供)

写真:福山 楡青

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