路上で交差するミュージシャンのドラマ Kabukicho Music Live vol.9

だてぃが

トップバッターで登場したのは16歳のシンガーソングライター、だてぃが。父親の影響で小学校6年生からアコースティックギターを手に取り音楽活動を開始。SNSで話題になり、中学生ながらテレビ番組に取り上げられたり、メジャーアイドルへ歌詞を提供するなど話題を集めている。ステージに「だてぃが16歳」と書かれたのぼりを掲げ、「こんにちは！ だてぃがです。ハロー、アイムだてぃが、16イヤーズオールド！」とオーディエンスに挨拶し、まだタイトルも決まっていない初披露の新曲からスタート。鬼気迫るテンションでメロディを投げかける。2曲目の「平和 the 平和」は、ギターの鋭いストロークにこれでもかと歌詞が詰め込まれ、言いたいことが洪水のように溢れ出した。間髪入れずに小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギー・バック」のカバーを披露。スムースなイメージの原曲を換骨奪胎し、即興のラップパートもはさみながら観客の胸ぐらを掴むようなパフォーマンスだった。

再びハンドマイクで歌われた「I want to hug you」はダンサブルなラブソング、「dirty world」はダークなトラップビートに乗せた日常打破ソングと、幅広い音楽性で世界観を爆発させる。次の曲はシネシティ広場すぐ近くの喫茶店で使った曲だという「クール」。「わたし中学生だから新宿行ってもすることない でもあのスクリーンに映るなら」という歌詞があり、まさにそのとき姿が映っている東急歌舞伎町タワーの巨大スクリーンを指さしながら「映ってるんだけど！ やばくない！」と歌いながら叫んだ。「こんばんは！」「かわいい！」「絶対フォローする！」というコールアンドレスポンスを交わしながら「聲」、「日本家屋」とたたみかけ、TikTokで約30万回再生された「ぶっ殺したい過去の記憶」に続けた。ドラマティックな曲展開と歌声の熱量にあてられ、オーディエンスも目が離せない。「ずっと観てくれた人は本当にありがとう！ 途中で消えちゃった人はドンマイ！ わたし売れちゃうよ！」と最後の曲「kirei」へ。のぼりを片手にはためかせながら縦横無尽に歌いきった。

「野外でのライブが初めてだったので、新鮮な感覚でした。若い人は新宿に怖いイメージがあると思うし、私もそうなんですけど、ここで歌って音楽でひとつのコミュニティーになっていて素敵でした。繋がってるというか、一体感がありました。歌舞伎町はよくライブで来ます。新宿はいろんな景色があるから面白くて、歌詞が浮かぶんです。音楽とマッチしている街なんですよね。Zepp Shinjuku (TOKYO)でもライブをやってみたいし、もっと大きい会場でもやりたいし、海外にもいってみたい。またこのイベントにも出たいです！」

アノエリカ

都内の路上ライブを中心に活動中のアノエリカは23歳から音楽の道に進み、半年足らずで初のEPを発表。路上ライブでの手売りのみながら2ヶ月で1000枚を完売し、2nd EPもわずか1ヶ月で1000枚完売となった実績を持つ。1曲目「アト」を清涼感あふれる歌声でパフォーマンスすると、「今日はいろんなお知らせがあります」と微笑む。久保田利伸「LA・LA・LA LOVE SONG」のカバーでは自然と手拍子が起こり、アノエリカ自身も気持ちよさそうに夜空を仰ぎながら歌っていた。続くMISIA「アイノカタチ」のカバーでは、配信のコメント欄に「やっぱり上手い！」と歌唱力への賛美が寄せられていた。翌日からテレビで自分の楽曲が流れることを告知するとオーディエンスからは歓声が上がり、その曲である「未完成」が披露される。ステージの後ろからも声援が飛び、「360度観られてる感じが武道館みたい！」と特殊なシチュエーションに喜んだ。

「この曲でたくさんの人が私と出会ってくれました」と歌い出したのはback number「ヒロイン」。感情を込めて歌い上げ、「これからも大切に歌っていきたい」と決意を新たにした。4つ打ちのバスドラムが軽快なダンスナンバー「Carry on! Carry out!」で客席と一緒に盛り上がり、「この場所で今日出会えたことは奇跡です。私の歌でみんなが笑顔になってくれる路上ライブという場所が大好き。ずっと続くように願ってます」と語る。最後の曲「Heather」では「私が愛したあなたのすべてを歌う」と繰り返され、歌を届けることへの愛情が表現されていた。

「開放的な雰囲気もあって、はじめましての人も聴きやすい環境だったんで、いろんな人に観てもらえてすごく楽しかったです。目の前の大きなスクリーンに自分が映ってるのもうれしかったですし、素敵なイベントだなと思いました。横からも後ろからも応援してもらったのははじめての感覚でしたし、歌う側はめちゃくちゃ気持ちいいですね！ 海外の方もたくさん立ち止まってくれました。来年1月24日に神田明神ホールでやる、300人規模のワンマンに向けて動いている最中なんですけど、来年は活動10周年でもあるので、まずワンマンを成功させて5大都市ホールツアーをやりたいと思っています！」

su（丸山純奈）

suこと丸山純奈は、2017年9月にテレビ朝日「ミュージックステーション」史上初のオーディション企画『Mステへの階段ウルトラ』を2000組以上の応募者から勝ち抜いて優勝し、アマチュア初として同番組「ウルトラFES2017」に出演。同年12月にはテレビ朝日「今夜、誕生！音楽チャンプ」にも出演し、その歌唱動画は1000万回再生を記録した実力派だ。

ライブがはじまる前から大勢のオーディエンスがステージを四方から囲んでいる。この人混みに興味を惹かれ、通りがかりの人々もさらに集まってくる。偶然性が高い路上ライブの醍醐味と言えるかもしれない。キャップを目深にかぶってステージに登場すると、宇多田ヒカル「Gold ～また逢う日まで～」を訥々と、誠実に歌い出す。続いては米津玄師の「Lemon」。歌い終わると「ありがとうございます」と深く頭を下げる。

「雨が降るかと思ったけれど、晴れてよかったです。今日はゆっくりお過ごしください」と観客に語りかけ、YUI「TOKYO」、絢香「みんな空の下」、kiroro「未来へ」を歌っていく。「やっぱりこの歌声最高すぎる」と、ファンからのしみじみとした感嘆がコメント欄に漂った。中島美嘉「一番綺麗な私を」、米津玄師「地球儀」と歌声は熱を帯びていく。「suという名前で路上ライブをやってきましたが、あらためて自己紹介させてください。丸山純奈です」と、活動名義を本名にすることが本人から告げられ、ギターを抱えて最後の曲「この街」が歌われた。高校一年生で上京し、はじめて作ったのがこの曲だという。再出発の期待と不安がまじりあった、リアルな歌。ライブを終え、ファンから「純奈ちゃんおかえり！」と声をかけられると、大きな笑みを浮かべていた。