2023年10月13日(金)より展示を担当するのは、キュレーター・RKさんと現代美術家・AMさんによるアート・コレクティブ・{ }。caccoと読む。気鋭の2人が目指すアートとは? 倉庫0で話を聞いた。
“私空間”と“公”の関係性を表現するインスタレーション
{ }は、1999年生まれのRKさんと、2002年生まれのAMさんの2人が2023年に設立したアート・コレクティブだ。特定のジャンルにこだわるのでなく、さまざまな分野の作品を制作することで彼ららしいオルタナティブな表現を行っている。
今年4月には、新宿歌舞伎町のアートスペース「デカメロン」で初の展覧会を開催。
続く2回目の展示となる今回のZEROTOKYOでのインスタレーションでは、「日常性」がテーマになるという。
「“私空間”とそこに対する“公”との関係性を表現したい」とRKさんは思いを語る。2人のクリエイティブの根幹には、自身の家族の風景が色濃く影響を及ぼしているのだそうだ。
最初は「何? 変なやつだな」と思いました(笑)
2人の出会いは、コロナ禍真っ只中の2020年に遡る。ファッションデザイナー・Sho Konishiさんによるオンラインスクールがきっかけだったそうだ。
Sho Konishiさんは、パラリンピック東京2020大会で開会式の衣装デザインも担当したデザイナーであり、ファッションやクリエイティブ業界を担う若き才能を育成するための教育にも力を入れている。
スクールは、Sho Konishiさんと生徒2人が対話を繰り返す内容で実施される。たまたま同じセッションに居合わせたのが、RKさんとAMさんの2人だったというわけだ。当時、RKさんは大学生で、AMさんは海外留学・高校卒業を経て、「しばらくふらふらしていた」タイミングだった。
「ちょうどスクールに参加したのもほぼ同時期で、1週違いくらいだったのかな。
いちばん最初の授業がすごく記憶に残っていますね。そのときは『100個のワードを挙げる』というような内容で。僕は、当時興味のあった哲学とか、政治の話をしました。それで、授業が終わったら急に(AMさんから)LINEが飛んできて、『今通話できますか?』って。そのときは何?変なやつだな、と思いました(笑)」とRKさんは回想する。
声をかけたAMさんは「僕が表現の下地にしている感覚は、日本のじめっとした、ドメスティックな問題なんですよね。なので、セッションの中で彼が話していたことなどから、RKくんにはシンパシーを感じたんです」と笑う。
「バイトまでなら……」「30分くらいで大丈夫です!」とやりとりをしつつも、結局2人は2〜3時間も話し込んでしまったそう。アートコレクティブ・{ }の誕生前夜といえるだろう。
「RKくんとは足並みが揃う感覚があった」AMさんがRKさんに感じた“シンパシー”
Sho Konishiさんの元で学ぶ人々は、ファッション分野で海外留学を目指している人が多いとのこと。そんななか、2人は「考えている問題や課題意識、表現したい内容が他の参加者とは違った」(AMさん)のだという。それはごくプライベートな、「家族」という課題だった。
「僕は都立の中高一貫校を卒業しているんですけど、自称・進学校というか、ある種“日本のデフォルトのルート”みたいな環境で。そこにまったく馴染むことができなかった。
家庭では、夫婦のコミュニケーションがうまくいっていない両親の様子を見て、息苦しさを感じていました。
こういうすごく私的な、家族の感覚であったり、中高生を取り巻くちいさな社会であったり……そこでの生きづらさ・問題に対して、自分が何かを表現することで生きていることを昇華したい。その点で、RKくんとは足並みが揃う感覚があったんです」(AMさん)
「(足並みが)知らない間に、ふわっとね(笑)」とAMさんに応じるRKさんにも、原体験となった“家族の風景”を聞いてみると……。
「僕は大学進学をきっかけに上京しましたが、出身は山梨県のちいさな田舎町。父親は自営業の3代目で、大きい家に住んでいたんですが、母が父の一回り年上で、さらにバツイチで、新興宗教にハマっていて……っていう状態で」とさらりと語るRKさん。「外面だけは良くて、『いいお父さんお母さんだね』と言われることもありましたが、やっぱり内側ではギクシャクしていたんですよね。DVもありましたし」と続ける。
「家族」は、多くの人にとって生まれて初めて出会う、最小の社会だ。狭くちいさく、独特の濃さと湿度をもつ世界。だからこそ、良くも悪くもその後の人生に及ぼす影響ははかりしれないものがあるだろう。
「家族観」は、僕らのオリジナリティを出すための鍵のひとつ
しかしながら、そこに向ける2人の目線は、非常にフラットで冷静に見える。
「僕としてはアクティビズムの一環ではなくて、自分達が自活するための手段として、必然的な表現をしていくということだと思っています。僕らはまだ、美術をやり始めたばかり。その文脈のなかでどう僕らのルーツとか感覚が歴史化されていくのか。
もっというと、これは世代的なものもあるんでしょうが……『どうまじめにやったってこの社会を変えることはできない』という諦めのような感覚もあって。それも加味したうえで、自分達が純粋に『かっこいいな』と思えるものを作りたい。
“家族観”は、僕らのオリジナリティを出すための鍵のひとつなんだと思います」(AMさん)
「今思えば、物理的にも精神的にも『この家を出ていきたい』という感覚はありました。
ただ母親は昔から小説が大好きな人で。そこで育ったからこそ僕は文章表現に親しむことができたんですよね。両親が年の差婚をしていたので、母からはビートルズ、父からはMr.Children……というように音楽的にも幅広い影響を受けている。
問題だらけの家庭だったけれど、結局僕の表現は、その両親から地続きになっているんです。
今だから言えることですが、よかったと思うんですよ。AMくんも“諦め”ということを言っていましたが、生まれ持った環境も含めてある種決定論的なものというか……僕は僕を生きていく、というところですかね。今のところは!」(RKさん)
歌舞伎町は、どこか自分達と近い感覚の街
さて、デビュー展示はデカメロン、2回目はZEROTOKYOと、何かと歌舞伎町に縁を感じる{ }の2人。この街で展示を行うにあたって、意識していることとは?
「勝手に僕らのなかで歌舞伎町をルーツのようにも思っていますが、街と僕らの距離感としては、観光客に近いと思います。
僕、気になることはすぐスマホで検索しちゃうんですけど、『つるかめ食堂っていうのが有名なんだって!』『OPEN BOOKってバー、知ってる!?』みたいな感じで、実際に2人で行ってみたりして(笑)」とAMさん。
ごくカジュアルに街を楽しんでいる様子が伝わってくるが、アーティスト活動を行ううえで歌舞伎町には「やりやすさ」を感じる、とも教えてくれた。
「やっぱり“シンパシー”なんですかね。いろんなバックグラウンドの人たちが集まってくる分、きっと、僕らと似たような考えの人もいて。僕らの表現やテンションと、街に親和性のようなものを感じるんです。僕自身は歌舞伎町の文化とは違うところで生きてきたとは思うんですが、どこか自分達と感覚が近い街としてみられるので、そういう部分はやりやすいですね」とRKさん。
AMさんも、「歌舞伎町界隈の人たちを見て、『なんか好きだなあ』『(僕らと)近い気がするなあ』ってのはあります」と続ける。
2023年、なんだか歌舞伎町に“呼ばれている”印象もある{ }。まずはZEROTOKYOに刻むその足跡を見届けつつ、彼らの表現の拡がりに注目したい。
家族という、ごく“私的”なモチーフから生まれた作品が、この世界にどのように手を伸ばしていくのだろうか。
{ }(cacco)
2023年に東京で結成された、不特定多数のメンバーによる、ソーシャルメディア以降の匿名性と集合知をテーマとして、新たな「家族」の形成を実践するアートコレクティブ。表現方法やコラボレーションの形式、メンバー同士の関係性は絶え間なく変化し、変容する。
2023年4月には新宿歌舞伎町のプロジェクトスペース、デカメロンにて{ }として初のexhbition「{ }」を発表した。
Instagram @cacco_official
(Password : ooyake)
” ooyake “
2023年10月13日(金)~10月23日 (月) 23:00~04:30
会場: ZEROTOKYO B2 ギャラリー(東急歌舞伎町タワー ZEROTOKYO内)
※本展示の鑑賞はZEROTOKYO営業日に準じます。(基本、金/土/日/月営業)
※レセプション以外での観賞はZEROTOKYOへの入場チケットが必要となります。
※作品鑑賞のみご希望の方は10/13(金)のレセプションにお越しください。
[オープニングレセプション]
2023年10月13日(金) 21:00~23:00
会場:ZEROTOKYO B2 ギャラリー(東急歌舞伎町タワー ZEROTOKYO内)、B1 倉庫0
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text:徳永留依子
photo:玉井俊行