コメディショー『Yoshimoto Comedy Night “OWARAI”』の舞台となるステージ(「FIRST STAGE」)は、東急歌舞伎町タワー2階にあるエンターテインメントフードホール「新宿カブキhall~歌舞伎横丁」内に設置されている。横丁はタワーの中でも人気スポットのひとつで、取材に訪れた8月30日も平日にもかかわらず仕事帰りのサラリーマンやカップル、海外からの団体観光客などさまざまな人がお酒や食事を楽しんでいた。
この日の出演者はピン芸人のウエスPさん、日本人ダンスチームの544 6th Ave、パントマイムデュオGABEZ。開演時間の20時を迎え、周りの照明が落ちてフロアに大音量の音楽が響き渡ると、道行く人や横丁のお客さんたちがステージに目を向ける。本イベントのMCを務めるチャド・マレーンさんが登場し、日本語と英語を交えてショーの紹介をするうちに客席はどんどん埋まっていく。
トップバッターとして登場したのは、世界各国のオーディション番組に出演し、海外から熱い注目を集めるウエスPさん。ファーストパフォーマンスは、Tシャツからハイレグになる「Tシャツマジック」だ。片言の英語で趣旨を説明すると、Daft Punkの「One More Time」が流れ始める。曲に合わせて1枚のTシャツを袖や裾をあちこちに通していくと、一瞬にしてうさ耳をつけたバニーガールへと変身!
大きな歓声が上がる一方で唖然としている人もいて、ウエスPさんは「温度差があっていいですね、賛否両論でありがたいです(笑)」とバニー姿で笑みをこぼす。
次に披露したのは「ニュータイプテーブルクロストリック」。顔を横にしてコップを置き、被っていたパンストを引き抜いたり、両胸につけたラバーカップを使った簡易テーブルからクロスを引き抜いたり、足の裏にコップを置いたり……と、まさにニュータイプなテーブルクロストリックを次々成功させると、吹き抜けの上階で見ていた通行人たちからも大きな歓声が上がる。
しかし、紙とコップを交互に積み重ねて乳首を使って紙を引き抜く高難度のトリックは、残念ながら失敗。団体観光客を中心に「Again(もう一度)!」というアンコールの声が自然と上がり、再チャレンジするが、あと一歩のところでまたも失敗。ウエスPさんも思わず「My nipple give up!(私の乳首が無理です!)」と悲痛な叫びを上げていた。
和装ダンスのバク宙に大歓声
続いて登場したのは544 6th Ave。TikTokのフォロワー60万人超え、ニューヨークのアポロシアターのステージへの出演経験もある実力派4人組ヒップホップアニメーションダンスチームから今回はMahiroさんとkeiichirouさんが登場した。 和傘に袴という出で立ちに海外からの観光客たちが熱視線を送る中、音楽とシンクロしたアニメーションダンスを展開。
時折挟まれる和装に合わせた歩法のような動きがオリエンタルな雰囲気を醸し出し、かと思えば、音楽とともにダンスは激しさを増していき、最高潮に達すると見事なバク宙を披露。
パフォーマンス終了後にMCのチャドさんと544 6th Aveの二人がトークをしていると、観客からバク宙のアンコールが。その声に応えて軽やかに宙を舞ってみせ、去り際までステージを盛り上げていた。
そしてこの日のトリを務めたのは、世界各地での公演経験を持つGABEZ。2020年東京オリンピック開会式でピクトグラムのパフォーマンスを披露したことでも知られている2人は、この夜もキレのあるパントマイムダンスで会場を沸かせる。
エアギターを弾いたり勢い余って相方を殴ってしまったりといったコミカルなやり取りから、ダンスとともにストーリーが展開。
海外でもおなじみのラバー・ダック(黄色いアヒルの玩具)が登場すると、お客さんからは歓声が上がる。アヒルの声真似以外は決して言葉を発さず、それでも何を言いたいのかが伝わってきて、動きと相まってさながら『トムとジェリー』を観ているような感覚だ。
さらにそうしたパフォーマンスの中には、お客さんも参加する振り付けが自然と盛り込まれている。終始ノリノリの観光客はもちろんのこと、フラッと食事に立ち寄ったような日本人グループもつられていつの間にか満面の笑みでピースするハッピーな空間が現出していた。
3組のパフォーマンスが大盛況に終わり、全組揃ってのエンディング。GABEZのMASAさんが544 6th Aveのようにバク宙を披露しそうで披露しないというボケなどもあり、最後の最後まで大きな笑いに包まれてステージは幕を閉じた。
終演後、ウエスPさんとGABEZの2組に話を聞いた。
「今日はしっかりとパフォーマンスを観てくれる海外の方が多くて、乳首テーブルクロス引きへのアンコールもあったりして盛り上げてもらってありがたかったですね。日本の劇場でそんな声が上がることってなかなかないですから。今日は自分の乳首の限界を試せました(笑)」(ウエスPさん)
「海外の人たちは、パフォーマーと一緒に盛り上がろうとするパッションがすごいですよね。観客の心の扉を開くのは僕たちの腕次第でもありますが、日本の人たちももっと思い切り楽しんでいいと思ってます。それが演者へのリスペクトにもなるので」(GABEZ・MASAさん)
「海外の人は“一緒に盛り上げる”“参加する”という精神があるのかなと思います。日本人は“観る”という感覚が強くて、むしろパフォーマンスする人を邪魔しちゃいけないし、真面目に見ないといけないと思ってしまっているのかも。それも日本の美学だと思いますが、僕らとしては一緒に参加してもらって盛り上がれるとうれしいですね」(GABEZ・hitoshiさん)
「真剣に観る、っていうのは日本のお笑い文化に根強くあるのかもしれませんね。だからこそ、僕たちのようなパフォーマンスをする人たちは、お笑い文化とは違った形での面白さを盛り上げていきたいです」(ウエスPさん)
新宿から渋谷へ…場所を移して挑戦は続く
海外経験も多い2組が語るように、日本では寄席やお笑いライブはすっかり根付いているが、いわゆる“コメディ”を売りにしたステージはまだまだ馴染みがあるとはいいづらい。なぜこうしたショーを始めたのか、本事業を手がける吉本興業株式会社マネジメント&プロデュース本部本部長 海外事業本部本部長(中国担当)の仲良平さんに話を聞いた。
「新型コロナウイルス感染症の拡大が収束し、大勢の海外の方々が来日する中で、吉本興業も海外の方々に向けて日本が誇る『コメディ』のステージコンテンツの提供にチャレンジしたい! と考えたことが大きなきっかけでした。
近年はとにかく明るい安村やウエスPらが海外の番組で評価をいただき、芸人の活動の場所も世界に拡がっています。2025年の『大阪・関西万博』で日本の注目度が上がる中、ますます世界に羽ばたく芸人が芸を磨くステージになれば、と考えています」
東急歌舞伎町タワーでの『Yoshimoto Comedy Night “OWARAI” in 新宿カブキhall~歌舞伎横丁』は8月で終了したが、9月からは渋谷の「ヨシモト∞ドーム」にて『Yoshimoto Comedy Night「OWARAI」』として毎週土・日20時から公演中だ。出演者には、今回出演したウエスPやGABEZだけでなく、5GAP、ハイキングウォーキング、くまだまさし、ゆりやんレトリィバァなど、いずれも言語の壁を超えて楽しめるエンターテイナーが揃い踏みとなっている。
「今後はより幅広いジャンルの芸人が登場する予定です。言葉なしで伝わるGABEZのようなパフォーマーもそうですが、ぼよんぼよんや5GAPなどは、英語を覚えてパフォーマンスやネタに取り入れて披露しています。歌舞伎町タワーでの経験を活かしながら、日本の『お笑い』をより多くの海外のお客様に楽しんでいただける場になることを目指し、どうしたらより多くのお客様に楽しんでいただけるか試行錯誤していきます」(仲さん)
常設公演として、「グローバルに楽しめる」というこれまでにないコンセプトの『Yoshimoto Comedy Night「OWARAI」』。日本を訪れた海外の人たちが日本のお笑いの魅力に気づくとともに、日本人にとっても海外の人々のステージの楽しみ方を知れる稀有な機会となってくれるかもしれない。言葉や国、それぞれの価値観を超えて、それでもなお面白い、楽しいを届けようとする本プロジェクトを通じて、多種多様な人々がともに笑い合える空間が広がっていくことを期待したい。
イベント情報
Yoshimoto Comedy Night「OWARAI」
◆公演日程 :2023年9月・10月 毎週土曜日・日曜日 ※11月以降の詳細は後日発表
9月開催日程:23日(土)、24日(日)、30日(土)
10月開催日程:1日(日)、7日(土) 、8日(日)、14日(土)、15日(日)、21日(土)、22日(日)、28日(土)、29日(日)
◆開催時間:
9月:開場20:00/開演20:30/終演22:00
10月:開場20:00/開演20:30/終演21:30
◆開催場所:ヨシモト∞ドーム ステージⅠ
◆住 所:〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町31-2 渋谷BEAM 7F
◆料 金:
9月:全席自由2,500円(税込)※1ドリンク制600円(税込)
10月:全席自由2,000円(税込)※1ドリンク制600円(税込)
出演者
◆9月23日(土)
MC:チャド・マーン/チャンス大城/ハイキングウォーキング/ぼよんぼよん/GABEZ/KAMIYAMA
◆9月24日(日)
MC:チャド・マレーン・CRAZY COCO/5GAP/市川こいくち/ウエスP/ひょっこりはん/くまだまさし
◆9月30日(土)
MC:チャド・マレーン/ハイキングウォーキング/5GAP/市川こいくち/ウエスP/GABEZ
※都合により、出演者が変更になる可能性がございます。
※10月以降の情報は公式HPでご確認ください。
Photo:二瓶彩
Text:須賀原みち
Edit:斎藤岬