冷徹な殺し屋・銀次を演じる早乙女太一さんと、銀次を付け狙う渡世人・朝吉を担う早乙女友貴さん兄弟に、いのうえひでのりさん演出による“いのうえ歌舞伎”の魅力や劇団の看板俳優・古田新太さんへの想い、兄弟の普段の関係性などを語ってもらった。
クールなのに笑いも満載! いのうえ歌舞伎の魅力
― 兄弟揃っての劇団☆新感線・いのうえ歌舞伎へのご出演は『蒼の乱』(2014年)以来9年ぶりになります。まずはおふたりが思ういのうえ歌舞伎の魅力を語っていただけますか。
早乙女太一(以下、太一):スピード感のある殺陣(たて)や派手な立ち回りといった外連味溢れる見せ場がたくさんある点が、いのうえ歌舞伎最大の魅力だと感じます。さらに、ただクールなだけでなく、随所に笑いの要素が加えられている構成も面白いですよね。ひとつの作品にカッコよさとお笑いの両方が存在しているところが、いのうえ歌舞伎の特徴ではないでしょうか。
早乙女友貴(以下、友貴):僕は新感線で少しおバカな役どころを担うこともあり、『薔薇とサムライ2−海賊女王の帰還−』(2022年)に出演させていただいたときもそうだったのですが(笑)、いのうえ歌舞伎にも登場人物が全力でふざけるシーンがあって、その抜け感があるからこそシリアスな殺陣が一層際立つ気もします。また、劇中に歌やダンスが散りばめられている構成も華やかでいいですし、それらすべてがバラバラにならず、バシっとまとまっているところもいのうえ歌舞伎の魅力ですね。
― 劇団☆新感線への客演は太一さんが7回目、友貴さんも5回目で、すでに準劇団員と称されていますが、おふたりにとって新感線とはどういう場所でしょう。
太一:新感線は何年かに1度帰るような場所で、客演(主催の劇団所属メンバー以外の俳優が公演に参加すること)として参加するたびに、自分が以前より成長した証(あかし)をお見せする必要がある場だとも思っています。初めて新感線の舞台に立たせていただいたのはまだ未熟だった17歳のときで、演出のいのうえ(ひでのり)さんや劇団員の方に1番たくさん言われたのが「もっと大きい声で喋れ」でしたから(笑)。今回の『天號星』は劇中で古田新太さんと僕が入れ替わるという奇想天外な設定ですので、どういうことになるのか今から稽古が楽しみです。
友貴:僕はこの5年間、毎回新感線の公演に呼んでいただいていますが、そのたびに身が引き締まる思いです。これまでの出演作で特に印象深かったのが客演2作目の『偽義経冥界歌』(2019年~2020年)。このときは冒頭から舞台に出て15分くらい喋って動いて殺陣もあるという役どころだったので、めちゃくちゃ鍛えていただきました。兄弟で古田さんと舞台上で戦うことは念願でしたから、今回も思いきりやらせていただきます。
太一:僕ら若い世代は“動き”担当だしね(笑)。カッコよくしていかないと。
友貴:いや、本当にそう! 思う存分暴れないとね(笑)!
― 今、『天號星』主演・古田新太さんのお名前が出ましたが、おふたりが思う古田さんの魅力ポイントを教えてください。
太一:舞台上であまり動かず手を抜いているように見えたりもするのに、その佇まいが圧倒的な色気として表に出るのが凄いと思います。それはお芝居だけでなく、殺陣のときも同じで、とにかく古田さんの力の抜き加減が最高なんですよ。あの技は常人では成立させられないですし、初めて共演させていただいたころからクレバーな方だと尊敬しています。
友貴:あの凄まじい色気、なんでしょうね、大体省エネなのに(笑)。古田さんは舞台上にただ存在しているだけで広い空間を埋め、すべての視線を自分に集めてしまう人です。そんな俳優さん、僕は他に知らないですね。
9年ぶりに新感線で兄弟共演。今はお互いが「頼もしい」
― 今回、太一さんは古田さん演じる引導屋の主人・藤壺屋半兵衛と中身が入れ替わってしまう冷酷無比な殺し屋・宵闇銀次を演じます。現時点での役の捉え方などお話しいただけますか。
太一:『天號星』には人の幸せのために他者の命を奪う殺し屋と、金のために人を殺める殺し屋が出てきますが、銀次は後者。結局人を殺す行為は同じなのだから理由なんて必要ないと考える冷酷な人間です。そんな銀次が前者の元締めである半兵衛と入れ替わるのが物語の“肝”ですが、じつは半兵衛も仕事で見せている強い顔と本当の姿が違うという設定があり、自分は結果的に3つのキャラクターを演じることになりそうです。そのあたりは稽古場で古田さんをしっかり拝見し、演出のいのうえさんともお話しながら作りこんでいきたいですね。
― そして友貴さんが演じるのはそんな銀次を付け狙う荒くれ者の人斬り朝吉。かなり悪そうなキャラクターですがいかがでしょう?
友貴:僕が演じる朝吉は、とにかく強い奴と戦って自分の力を見せつけたいと思っている渡世人です。これまで客演した新感線作品ではどこか抜けていたり、おチャラけていたりするキャラクターを担うことが多かったので、男臭さも野性味も備えた荒くれ者の朝吉は、新しい役柄への挑戦になりそうです。
― 今作『天號星』の見どころのひとつが9年ぶりとなる早乙女兄弟の共演です。おふたりはそのあたりをどう意識なさっていますか。
太一:新感線の舞台で弟と共演することについて、驚きや違和感はまったくなかったです。最初は僕の知らないところから話が進んでいましたし(笑)。
友貴:そうそう、僕が兄弟VS古田さんで殺陣がある芝居をどうしてもやりたくて、プロデューサーさんにお願いしたら、実は新感線の方でもその企画を考えていたということで一気に話が進んだんです。
太一:『髑髏城の七人』(2011年・通称『ワカドクロ』)に出演したとき、(天魔王役の)森山未來さんと対峙して「殺陣も会話と同じ」なのだと強く実感しました。殺陣の型が同じでも自分の感情が変わると、相手役からの殺気も変化するんです。『蒼の乱』で兄弟共演が決まったときは、自分が新感線の舞台で得たそういう経験値を初新感線の弟に伝え、ふたりで作品全体に貢献したいと思ったのを覚えています。
友貴:そこまで考えてくれていたなんて当時は知りませんでした。今回はそれぞれの経験を経て9年ぶりの新感線共演なので、皆さんの期待を裏切らないよう頑張りたいです。いやでも、普段2人でゆっくり話すことはないよね?
太一:ないね(笑)。まあ、共通の友人や知人も多いから、稽古場以外だと食事に行った場所で偶然会ったら雑談する程度ですかね。
友貴:お互い、どんな生活をしているのかもじつはよくわからないんです(笑)。
― それはちょっと意外でした(笑)。劇中では太一さん演じる銀次と古田さんが担う半兵衛の中身が入れ替わってしまいますが、もしご兄弟おふたりが入れ替わるとしたら何をしてみたいですか?
太一:友貴が戻ったときにめちゃくちゃ迷惑がかかるようなことをするしかないですよね(笑)。洋服が好きで、買ってきた服に自分でペインティングしているみたいなので、僕が先に好きな絵を描いちゃうとか。大体、洋服買ってもすぐに着ないんでしょ? 汚れるのが嫌だからってワケのわからない理由で(笑)。
友貴:うん、そう(笑)。僕が入れ替わって兄になったら、とりあえず、クレジットカードで変なインテリア用品を買いまくって、勝手に模様替えしようと思います。
太一:うわ、それは嫌だな(笑)。
― ありがとうございます(笑)。では、それぞれを表現者としてどうご覧になっているのかも教えていただけますか。
太一:すべてを見ているわけではないですが、歳を重ねるにつれ友貴がどんどん成長していく様子は頼もしいです。殺陣やアクションの技術面もですが、それより仕事への向き合い方や現場での覚悟が固まっているさまは素直に凄いと思いますね。
友貴:特に自分たちでやっている「劇団朱雀」では兄が座長としてすべてを見ていて、皆をまとめてくれる姿が頼もしいです。子どものころからずっと兄の背中を見てきましたので、座長としても役者としても尊敬しています。入れ替わったらクレジットカードは使っちゃいますけど(笑)。
― 9年ぶりの新感線ご共演、そして古田新太さんと交わす三つ巴の殺陣など、新宿歌舞伎町で甦る“いのうえ歌舞伎”がますます楽しみになりました。最後に今後、おふたりが新感線の舞台で挑戦してみたい作品などあれば教えてください。
友貴:これまでは笑いを取るキャラクターが多かったので『朧の森に棲む鬼』(2007年)のようにダークでヘビー、誰も幸福にならないような悲劇にも挑戦してみたいです。今回の『天號星』では、中国武術の達人・山本千尋さんとも絡みがありますので、これまでとひと味違う殺陣とアクションを楽しみにしていてください!
太一:僕は『レッツゴー!忍法帖』(2003年)を初めて観たときの衝撃があまりにも強烈でずっと憧れているので、いつか新作のネタものにも出てみたいです。また、自分が新感線に客演して貢献できることがあるとしたら、新しく座組に入ってきた人と劇団員の皆さんを繋げること、そして殺陣の部分の底上げすることだと思っていますので、今回はネタものへの野望は一旦忘れ、最高にカッコいい殺陣をお見せできればと思っています。
ヘアメイク:[早乙女太一]岩澤あや、[早乙女友貴]国府田雅子(B.sun)
スタイリスト:[早乙女太一]八尾崇文、[早乙女友貴]佐藤美保子
文:上村由紀子(演劇ライター)
写真:平安名栄一
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積年の夢を叶え、ついに早乙女太一・友貴兄弟がいのうえ歌舞伎で古田新太と激突!|劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎『天號星』