梅雨が明け、夏の訪れとともに始まる今回の展示は写真家・中山桜氏の写真展。「人がいる街」というタイトル通り、カオスな街・新宿歌舞伎町を舞台に人々のリアルな姿を切り取っている。“その人らしさ”を感じさせる、生命力あふれる写真が特徴的な彼女は一体どんな人なのだろうか? 中山桜氏の内面、写真への思いについて迫った。
“新宿嫌い”から一転、その魅力に開眼。中山桜が切り取る、新宿の「超人間」
― 7月22日から始まる写真展「人がいる街」。ユニークなタイトルにわくわくしますが、どんな展示にしたいと考えていますか?
「人間らしさ」をテーマに、新宿を通して私が感じる「超人間」を飾りたいと思っています。新宿って、ひと言で言っても歌舞伎町や二丁目などエリアによって色が全然違うじゃないですか。そういうところが面白いので、新宿のどこで撮ったか分かるマップも一緒に作る予定。
始まる前から気が早いんですけど、新宿の写真を新宿で展示し続けることってすごく意味があると思うので、今回を皮切りに2回目、3回目と継続できる企画にしたいです。
― 沖縄から上京して10年。今でこそ新宿や歌舞伎町を「面白い」と話す桜さんですが、写真展のステートメントには「私は新宿が嫌い だった。」と書かれていましたね。
食わず嫌いというか、あまり来たことがないけど「なんとなく嫌い」でした。とにかく駅がヤバい! 人が多くて道が複雑で……ゆったりしていて人も少ない沖縄県出身の私には難易度が高くて、待ち合わせに1時間とか掛かっちゃうんですよ(笑)。
あとは、キャッチやティッシュ配りが多いのもなんだか苦手で。声掛けられるのが鬱陶しいんじゃなくて、その逆です。あれって声掛ける人を選んでるじゃないですか? 私はだいたい掛けられない人間なので、「選ばれなかった」というか人間選別しているというか、その感じが生々しくて嫌でしたね。
― そんな新宿嫌いが一転して、「新宿面白い!」となった理由は何だったのでしょう?
まずは、すごく最近の話なのですが、ゴールデン街のお店で立つようになって新宿に来る機会が増えたから慣れたというのが大きいです。それからもう一つは、人間がめちゃくちゃ面白い。
言葉を選ばずに言うと、新宿って「狂った人」が多いっていうイメージがあったんです。それは確かに間違いないんですけど、実際に新宿に来るようになったら「狂いたい人」も多いなって。普段きちんと生きているからこそ羽目を外しに来ているというか、もちろんそうではない人もたくさんいますけど……。それに気付いたときに「ヤバイ!超人間的じゃない!?」って思って、3カ月くらいしか新宿に来ていないのでまだまだ何も分かりませんが、素敵だなって。
人が、写真が、好き。だけど時々しんどい。誰よりも「超人間」的だからこそ撮れる写真
― 桜さんは、大学生のときにフィルム写真を撮り始めた頃から一貫して「人」を撮り続けていますが、今のお話を聞いて、写真ももちろん好きだけど何よりも「人間」への興味や好奇心が強いのだなと感じました。
そうなんですよ。私はカメラマンとか写真家っていうより「ただ人が好き」なんです。それを伝えるツールとして写真を始めて、たまたま仕事になっているタイプなので、正直技術とか細かいこととかは知りません。喋るのが好き、人が好きだから写真をやってる。
撮影中も「この人をちゃんと撮りたい」「可愛い、素敵な姿を残したい」と思っていて、写真はあくまで手段なんです。
― 「ただ人が好き」という気持ちで写真を撮るから、桜さんの写真に写る人はイキイキしていて、親しい人に見せるような表情なのですね。 とはいえ、初対面の方だとすぐに距離を縮めるのは難しいと思うのですが、撮影の際に心を開いてもらうコツはありますか?
ないない(笑)。仲良くなるテクニックとか打算的に考えていないってことが、逆にコツかもしれません。素直に「この人のこともっと知りたい」って思ったら自然に距離が縮まっていることが多いかも。
根が田舎のヤンキー気質なので、心を開いてくれない人には「面白いと思わせたい。楽しませるぞ〜!」って気持ちで興味があることとか聞いて、頑張っちゃいますね。
でも、お仕事で人を撮らせていただくときは、事前にその方の好きな映画や場所などの情報をチェックします。あとは「盛れる角度はあるか?」「どんな雰囲気が好きか?」とかも聞きますね。
― 盛れる角度! カメラマンや写真家の方とお仕事する機会は多いほうですが、「盛れる角度」を聞いている方は見たことがないので新鮮です。
だって、シンプルに自分の顔が「盛れてる写真」のほうが嬉しくないですか? 写真の良し悪しとか難しいことは分からないですけど、スマホでも他撮りって盛れなくて落ち込むことが多いですよね。
それがカメラを使って知らない人に撮られたら緊張もするし、さらに盛れにくくなるのは当然。だから良い写真とかどうこうの前に、「私が一番可愛く撮ってやるぞ!」って思って撮影しています。
― ということは、普段と写真を撮るときでコミュニケーションの取り方はあまり変わらない?
あまり変わらないと思います。そもそも人との距離を縮めること自体が「ライフワーク」みたいな感じなんで。その先に写真があって、もう癖になってしまっているというか、食べる飲む寝る喋る写真撮る!みたいな(笑)。たまにそれがしんどくなることもあるんですけどね……。コラムとかSNSを読んでもらうと分かるように、私本当はめちゃくちゃ暗いんですよ。
― そうなんですか? とても意外ですが、詳しくお聞きしたいです。
いや、ここまでの話で私のこと、すごく明るくて誰とでも仲良くなれる元気なやつだと思われたかもしれませんが、実はほぼ無意識でやっているんですよ。
私、沖縄の久米島出身なんですけど、両親が内地(本州)の人で。移住してから生まれたので、生まれも育ちも久米島だけど沖縄の血が入っていないんですね。沖縄って行事が多いんですけど、うちは何もなかったりと、小さい頃はいろいろありました。
それで自分がその世界で気まずくならない方法をずっと考えていて、瞬時に人を分析していたんです。「この人はここで盛り上がるんだ」「この人にはこういう喋り方をしたほうが良いな」って、人をよく見ていたんだと思います。
だから今も無意識で瞬時に人を分析して人と仲良くなっていると思うのですが、これはもう身についてしまった癖なので、それでたまにしんどくなる自分も、それをプラスに思える自分もひっくるめて「私」だと思っています。
― 人が好きな自分も、瞬時に人を分析する自分も、それに疲れる自分も、全部自分自身。複雑な感情が絡み合うのが人間であり、桜さんご自身が「超人間」的だから魅力的な人間の写真が撮れるのですね。
人が好きだ好きだって言っていますけど、何が好きかっていうと、こういう複雑でひと言では言い表せない内面をもっているところが好きなんですよね。
生きるって、綺麗なことばかりじゃなくて変なこと考えたり苦労したり、もっとドロドロした部分があるじゃないですか。誰もがもっているそういう面に「人間らしさ」を感じるし、そこが好きです。
私はそれを昔から「あがき」と呼んでいて、写真のテーマとして常にあるんですけど、人が“あがいている”部分が見えると「今、写真撮りたい!」って思います。
ただ綺麗な写真は私より上手い方がたくさんいらっしゃるので、今回の展示のように「その人の内側に一歩踏み込まないと撮れない写真」を私は撮り続けていきたいです。
Sakura Nakayama | 中山 桜
写真家。沖縄県の離島久米島育ち。
フィルムカメラで人物を中心に撮影。そのほか、写真展の開催、ミュージシャンのアーティスト写真やライブの撮影、雑誌やメディア掲載のポートレート撮影なども行う。お酒が好き。
[Exhibition]
「人がいる街」
2023年7月22日(土)〜8月7日(月) 23:00〜04:30
会場: ZEROTOKYO B2 ギャラリー(東急歌舞伎町タワー ZEROTOKYO内)
※本展示の鑑賞はZEROTOKYO営業日に準じます。(基本、金/土/日/月営業)
※レセプション・フリーオープン日以外の観賞はZEROTOKYOへの入場チケットが必要となります。
※作品鑑賞のみご希望の方は7/22(土)のレセプション、もしくは7/30(日)・8/4(金)のフリーオープンにお越しください。
[オープニングレセプション]
2023年7月22日(土) 21:30〜23:00
会場:東急歌舞伎町タワーB1 倉庫0
[フリーオープン]
2023年7月30日(日) 22:00~23:00
2023年8月4日(金) 22:00~23:00
text:大西マリコ
photo:玉井俊行