熱気あふれる満員のフロアに向けて「生まれた街、育った街、好きな友達がいる街、大好きな両親がいる街で、目の前に大好きなあなたがいるのは幸せなことです」と語りかけた渋谷さん。万感の想いが滲んでいるようだった。そんな美しい日を終えて、今思うことは。
“初日”は絶対に覆らないもの。「生まれ育った街でそれができるのは、とても名誉なことです」
― Zepp Shinjukuでのライブ「都会のラクダ 柿落としSP 〜新宿生まれの、ラクダ〜」、素晴らしい一夜となりました。まず、渋谷さんのご感想はいかがですか。
普段から、どんなライブでも同じ気概で挑めるようにしているんです。呼んでいただいたライブでも、自分たちの企画であっても、モチベーションや気持ちの部分はいつもほぼ変わらないし、変えないようにしています。
……なんですが、さすがに今回は、ちょっと肩に力が入りましたね。僕にとっては地元でのライブですし、Zepp Shinjukuにとっては正真正銘の“初日”。絶対に覆らないものなので。自分が生まれ育った街でそれができるのは、やはりとても名誉なこと。この一日を自分たちに任せてもらえて、すごく光栄でした。
他のメンバーもこの日はかなりテンションが高くて、終わったあとに「めっちゃよかった!」と口々に言っていました。実際、僕もすごく楽しかったですし。“地元凱旋”って言ってもバチはあたらないものだったと思います。地元の友達や、父ちゃん母ちゃんも観にきてくれて。
― ご両親もいらしていたんですね! 何か感想はおっしゃっていましたか?
「立派だと思うよ」と言ってくれました。ひとつ親孝行ができましたかね。歌舞伎町という街で育ててもらって、その場所で自分たちがああいう景色を作れたことを、喜んでもらえたと思います。親孝行のために音楽をやっているわけじゃないですけど(笑)、そのうえで両親も喜ばせることができるのは、やっぱりうれしいことですよね。これこそがバンドマンの本懐だと思っています。
― 新宿に暮らす大事な人にも喜んでいただけたと。地元のご友人のみなさんはいかがでしたか?
みんな最初は場所がよくわかっていなかったみたいで、「前にミラノ座だったところって教えてくれたらわかりやすいのに」とか言っていましたけど(笑)。そうだよな、「ミラノ座」って言って通じる仲間だよな……としみじみ思いました。かつてはみんなでボウリングしたり、映画を観に行ったりしていた場所ですから。
そんな仲間にも、ちゃんと自分たちの音楽を観て聴いてもらえる場所を作れたのがうれしかったですね。ライブが終わったあとは地元の仲間と飯に行ったんですが、彼らも喜んでくれていることが伝わってきました。
― フロアのお客さんの熱量もすさまじいものがありました。
そうですね。自分たちだけでなく観てくれている人たちにとっても“Zepp Shinjukuの初日”ですから。そんな場所に立っている、というスペシャルを実感してくれたんじゃないかな。
なので、総じてテンションは高かったですよね。自分たちをはじめ、観てくださる方達にも、あの夜だけのすごく特別な空気が連鎖していたんじゃないでしょうか。
SUPER BEAVERが、“ライブハウスから何かを届ける”意味
― ライブのアンコールの模様が『CDTV ライブ! ライブ!』(TBSテレビ)で生中継されたことも、スペシャルなトピックのひとつでしたね。
テレビに出演させていただくことで、バンドや楽曲をより多くの人に知ってもらえるのは、光栄なことです。加えて、“ライブハウスから何かを届ける”ということが、自分たちにとってこれまでと違った意味をもつようになってきていて。
コロナ禍を経て、ライブハウスでの遊び方を知らない子たちも増えていますよね。僕が「ライブハウスめちゃくちゃ好きだな」って思ったのは高校の3年間なんですよ。ちょうどコロナ禍って3年あったじゃないですか。声出し解禁やキャパシティの制限がなくなったのって本当につい最近のこと。ライブハウスという場所の面白さや、特別な空気感を知らないままの人がたくさんいるし、離れて行った人もいる。
もう一回、「ライブハウスってこんな場所だよ」ってみなさんに知ってもらいたい。今回のテレビ中継によって、その一端を担えたかもしれないことは、僕たちにとって大きな意味がありました。その点でも気合いが入っていて、もう“トリプルミーニング”なライブというか。
― Zepp Shinjukuの柿落としであり、渋谷さんの凱旋公演であり、ライブハウスの“今”を届けるという、トリプルミーニング。本当に特別な夜ですね。当日は東急歌舞伎町タワーの映画館でのライブビューイングもありましたし、屋外ビジョンでもライブの一部が放映され、たくさんのファンが集まりました。
今回は「観たい」と言ってくださる方の数がすごく多かったですし、この日に賛同したいと思ってくれる人たちと、なるべくみんなで楽しみたかったんです。なので、タワーのビジョンでライブを放映するというお話を聞いたときは「ぜひ!」という感じでした。
本当はもっと長い時間放映したかったのですが……あの日の一部だけでも、歌舞伎町の街のなかで体験してもらえたら、それもひとつ特別な時間になるのかなって。
― 多くの方にとって特別な時間になったと思います。Zepp Shinjukuの印象はいかがでしたか?
初めて中を見せていただいたときに感じたのは、「Zeppっぽくないな」ということ。内装は限りなくクラブに近いような雰囲気もあって。ライブハウスって自然と似たような形状が多くなりますけど、Zepp Shinjukuは他では見ない形。個性のある、特徴的なハコだなというのが第一印象でしたね。
― 深夜はクラブ(ZEROTOKYO)に変わるという、二面性を持っていますよね。
僕は新宿でクラブが流行っていた時期にクラブで遊んでいなかったので、個人的には「新宿とクラブ」ってあまり結びつかないのですが、あの街のなかにあの規模の「クラブ」ができるのは面白いことなんじゃないでしょうか。新宿の楽しみ方が、またひとつ増えたと思います。
“東京”ではじまり“東京”で終わるセットリスト。バンドと新宿の街を結びつける楽曲に込めた思い
― セットリストはこの日のために特別に組まれたものでした。ずばり、こだわったポイントは?
メンバー全員東京生まれということで、“東京”と名のつく曲で始まって、“東京”というタイトルの曲で締めるっていうのは、やってみようと思っていたことです!
― 本編1曲目が「東京流星群」 、アンコールラストが「東京」でしたね。これはどなたの発案なんでしょうか?
誰ともなく、「こういうことできたら面白いよね」って感じで決まりましたね。「東京流星群」はギターの柳沢(亮太)が作詞作曲した曲ですが、この曲がイメージしている街が新宿だった、ということもあって。記念すべき公演の幕開けにこの曲をもってこられたのは、勝手に、個人的にはグッときています。
― オーディエンスのみなさんもブチ上がっていたことと思います! 終盤に差し掛かった頃、長尺のMCのあとに初期からの楽曲「シアワセ」が歌われたのも印象的でした。
バンドとしては、まだ最初にメジャーにいた頃(※)のしんどい時期にこの曲の存在に救われたんですよね。僕は20歳くらいだったのかな。当時は新宿の実家に住んでいたので、僕にとってこの曲とあの頃、そして毎日帰っていた新宿の街ってとても強く結びついているんです。しんどい時期にいた僕を、父ちゃん母ちゃんも見ていましたし……。
※編集部注:SUPER BEAVERは2009年にEPIC Records Japanから一度メジャーデビューするものの、2011年にはインディーズに活動の場を移している。2020年、Sony Music Labels Inc.から再メジャーデビュー。『シアワセ』は3rdシングルとして2009年リリース。
とはいえ、ちょっと個人的な感情が介入しすぎそうになったので、ライブではそこは気をつけました(笑)。歌っている僕だけ気持ちよくなったり、両親にだけ響いたりしてもまったく意味がないですから。
― 曲前のMCでも「自分が泣いたら、強制的に感動させるみたいでずるい」とおっしゃっていましたね。
バンドマンとして、個人の気持ちが表現に出るというのはあってもいいことなんですが、僕個人しか知らないことで勝手に感動しているのって違うな、と思っていて。
あの当時の想いが詰まった曲だけれど、だからこそ自分たちだけではなく、今聴いてくださっている方達に響かなければ意味がない。あの日、Zepp Shinjukuでしかできない表現を見せてこそと、気持ちを込めました。
映画『東リべ』主題歌の新曲「儚くない」。象徴的なタイトルに込められたものは
― 2023年6月28日リリースの新シングル『儚くない』についても聞きたいと思います。表題曲の「儚くない」は映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に書き下ろされた楽曲です。
前作、前々作に引き続き映画の主題歌を担当させていただくのはバンドにとってもうれしいことであり、特別でありがたいことです。SUPER BEAVERをまだ知らない方にも聴いてもらえるチャンスなので、より“浸透しやすい”楽曲作りを心がけました。
― 「儚くない」はピアノとストリングスが印象的な楽曲です。これまでもこうした楽器を取り入れた曲はありましたが、今作では特に、イントロからグッと耳を惹くアレンジになっていますよね。
一音目からピアノという曲は、初めてのことですね。僕たちの音楽を聴いたことがある方には新しいものを、初めての方にはスッと耳に入ってくるようなものを……と考えました。これも初めての取り組みなんですが、音楽プロデューサーの河野圭さんには楽曲制作、レコーディングの段階から関わっていただいて。結果、これまでの自分たちにない、新しい引き出しを見出すことができたと思っています。
― 映画と楽曲がリンクする部分はどんなところだと思いますか?
書き下ろし楽曲である時点で、曲の軸に映画があるというのは大前提として。だけど、リンクする部分を無理やり探したりだとか、当て書きになりすぎると自分たちの楽曲ではなくなってしまう。バンドの中にない引き出しからものを持ってくると、そういうことが起きてしまうんですよね。
なので、バンドの中にある引き出し……つまり精神的な部分であったり、意思であったり。そういう部分と、物語や登場人物がリンクする部分を探す作業をしながら楽曲にも向き合っています。でないと、作品に矛盾が生じてしまいますから。
― 映画のエンドロールで聴いたときにはまた違った印象を受けそうで、今から楽しみです。最後になりますが、「儚くない」という象徴的なタイトルに込められたものは。
タイトルはけっこう話し合いましたね。もともと仮タイトルから「儚くない」だったんですが、きっとみなさん聞いたことのない言葉だと思うんです。それがどっちに転ぶんだろう、このまま行くのが正しいのか、もっとキャッチーなものを掲げた方がいいのか……とか。
結局は、この楽曲がはらんでいるすべてを表現できるのはこのタイトルしかないということで、「儚くない」に決まりました。とはいえ命が儚いものだ、ということを自覚しているからこその“儚くない”だと思っているので。その意味合いをちゃんと踏まえた上で、この言葉を選んでいます。
― この曲もまた、多くの方に響いていくことと思います。ライブ会場での披露も今から楽しみにしています!
SUPER BEAVER
渋谷龍太(Vo)、柳沢亮太(G)、上杉研太(B)、藤原“35才”広明(Dr)の4人によって2005年に東京で結成された。
2009年6月にEPICレコードジャパンよりシングル「深呼吸」でメジャーデビュー。2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタートさせた。
結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと契約を結んだことを発表。約10年ぶりのメジャー再契約となった。
映画『東京リベンジャーズ』にて、1作目から主題歌を手がけている。
ニューシングル『儚くない』
発売日:2023年6月28日
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文:徳永留依子
写真:浦将志