舞台設定は日本。ストーリーは、誰も予想できない展開へ――
― 舞台『パラサイト』、素晴らしいキャストがそろいましたね。お二人は今回、親子を演じますが共演は初めてですか?
古田:共演は初めてです。稽古はこれからだけど、(取材などで)会うのは3回目ぐらいだよね。
宮沢:そうですね。お会いするのは3回ほどですが、どの回もなかなか濃密で。稽古が始まったら、関係性もより深くなっていきそうです。
古田:オイラは壁をつくらないので、誰とでも仲良し“そう”になれると思います(笑)。稽古が始まると、飲みに行ったり飯に行ったりできるだろうし。
─ 稽古はこれからということですが、台本はすでにお手元にあるそうで。気になる内容を少し伺えますか。
古田:演出の鄭(義信)さんが描く台本、上手いなって。映画をそのまんまやっちゃうと比べられてしまうけど、舞台設定を韓国から関西に変えていて、置き換え方が上手い。今回に限らず言えることで、シェイクスピアの舞台も、ミュージカルもファンタジーものも、そもそも日本人なのに外国人役を演じていることに、オイラは笑っちゃうんだよね。
─ うっすらとした違和感、でしょうか。
古田:そう、違和感があるというかね。それでいうと今回の『パラサイト』の台本は、韓国の半地下の設定をうまく日本のシチュエーションに変換していて。映画が持っているあのスペクタクル感もうまく躱(かわ)している。映画の『パラサイト』を観ている人は、この舞台を観たとき、「おおっ、そうきたか!」って思うよね。
宮沢:そう思います。部分的に変えているところもあるので、映画を観た人にとっては、次はこうなるだろうなと予想しても外れる。(いい意味で)期待をどんどん裏切ってくれる作品になるんじゃないかなと。
古田:まず、純平が計画を立てて、長女とお父さんとお母さんも巻き込んでやってくぜ、みたいな流れは映画と一緒だけど、舞台の一幕から二幕への転換がね、見事なんですよ。
宮沢:見事、でしたね。「こう来るか!」と。ものすごくシームレスにスムーズに転換していくので。
古田:あと、舞台のオープニングで、この家族はどういった所で暮らしているのか、バックボーンをしっかり打ち出していて。貧しさの表現も上手い。実は、「におい」がキーワードになっているっていうのもポイントかな。詳しくは言えないけど、映画にはなかった演出で。
─ 日本を舞台にすることで、知っているけれど新しい『パラサイト』になっていると想像できます。続いて、お二人の演じる父・金田文平と、息子・純平の役柄についても聞かせてください。
宮沢:純平は、いろんな計画を立てて、お金持ちの家族に寄生していく主犯格。ブレーンであるのは映画と同じです。内面(うちづら)と外面(そとづら)が全然違うので、それを演じ分けるのは楽しみですね。基本的には会話劇なので、会話をベースに物語が進んでいくのが見どころです。
古田:文平と純平、父と息子のやりとりは、オーラスがみどころだよね。
宮沢:そうですね。物語の後半では文平に父親としての存在感が出てくる。その展開がすごく好きです。それまでは純平が家族を引っぱっていたけれど、ガラッと変わっていくので。
─ お二人の話ぶりから、鄭義信さんを信頼されている様子が伝わります。この舞台のオファーが来たときの気持ちも伺えますか?
宮沢:驚きましたね。舞台化するのであれば、本国の韓国での話だろうと思っていましたし、アカデミー賞で作品賞を受賞しているので、アメリカかなとも。でも、まさかの日本。この舞台も、もしかしたら世界を周るかもしれない──そう思うと、凄いことだなと。
─ たしかに、日本で舞台化は驚きました。ただ、ポン・ジュノ監督は当初は戯曲として構想していたそうなので、自然な流れとも言えますね。
古田:物語の展開する場所は、2家族がそれぞれ住む家ぐらいで、あまり場面が飛ばない。だから映画を観たとき、舞台でやっても面白いだろうなと感じてて。映画には視覚的に印象が強いシーンも多いから、それはそれで面白いけれど、観客との距離がもっと近いほうがこの作品は面白くなる、と思っていたら鄭さんがやってくれた。
─ 鄭義信さんは、演劇からキャリアをスタートさせていますが、『愛を乞うひと』『血と骨』『焼肉ドラゴン』など映画の脚本も数多く手がけられていますね。
古田:いつか一緒にできたらいいなと思っていたら、今回、声がかかって。しかもメンバーをみたら「おおっ!」という面子。久しぶりの人もいるし、初めての人もいるし、いい座組だなと。(山内)圭哉とか、みのすけとか、一緒に飲めるヤツもいるので。
─ やはりそこは重要ポイントなんですね。
古田:飲めるかどうかはすごく大事(笑)。
宮沢:古田さんと僕と、好きなお酒が一緒なんですよ。
古田:麦焼酎ね。
― お二人と仲良くなるには、必須ですね。
古田:そうですね(笑)。氷魚はかっちょいいじゃないですか。だから、会う前は気取っている人なのかなと思ったけれど、ぜんぜんフレンドリーで。のりちゃん(江口のりこ/母親役)も伊藤沙莉(長女役)もめっちゃ飲むらしいので。
宮沢:僕もけっこう飲めるので、稽古が始まるのが楽しみです。聞いた話だと、古田さんの出る作品には、稽古場にBARコーナー、飲みエリアが出現するって……本当ですか?
古田:人によるけど、(その日の稽古の)出番がなくなると、最後までいなくていいよ、という演出家がいて。鄭さんがどういうタイプかは分からないけど。そういう演出家のときは、ちょっと待っていたらアイツら(共演者)も終わるなって、飲みながら待ってるわけ(笑)。
─ 飲む気、満々ですね(笑)。でも、コミュニケーションは大事ですよね。
古田:そう、すごく大事。後輩にアドバイスしたくても、先輩に聞きたいことがあっても、稽古中はできないじゃないですか。だから、飲みながら「あれって、どういうことなんだろう」とか「お前、あそこはこうやってみろよ」とか芝居の話をしていたのに、コロナ禍はそれができなかった。ようやく締めつけがゆるくなってきたので、そろそろ元に戻ったらいいなと。
宮沢:コミュニケーションと言えば、僕、古田さんとお芝居するにあたって楽しみにしていることがあって。古田さんのスタイルって、球を投げる方、いわゆるピッチャータイプかと思っていたら、キャッチャータイプでいろんな球を受け取る側だと聞いて。息子の純平として、古田さんにどんな球を投げてもいいんだ!と思ったら、安心感はもちろん、楽しみで仕方ないです。
古田:前半は、息子と娘が積極的に動くので、子供たちに振り回されたいなと思ってます。楽しみですね。
─ 観る側としても、完成形が楽しみです。
変化していく、新宿という街との関わり方
─ さて、舞台『パラサイト』は東急歌舞伎町タワーにあるTHEATER MILANO-Zaで公演されますが、新宿・歌舞伎町はお二人にとってどんな街ですか?
古田:氷魚は、新宿に来ることある?
宮沢:以前は近づきがたいイメージがありましたが、歌舞伎町に来るようになったきっかけは映画館です(新宿エリアには現在、東急歌舞伎町タワーにある109シネマズプレミアム新宿を含めて10の映画館がある)。今は、東急歌舞伎町タワーもできて、エンタメもアートも楽しめる、そういうイメージに変わりました。
─ 宮沢さんは、このタワーに設置されているアートの日本語ナビゲーターも務められているんですよね。
宮沢:そうなんです。このタワーに飾られているアートのオーディオガイドを担当させてもらいました。さっき、古田さんと撮影した場所の天井に、大きなオブジェ(作:西野逹)あったじゃないですか。あれは、昔から新宿にあった街灯、家具、本、服、バッグなど色々なものを組み合わせた創作品なんです(※この日の取材場所は、17FのJAM17 BAR / DINING & BAR)。
─ 宮沢さんご自身は、もともとアートがお好きなんですか?
宮沢:美術館に行くのは好きですね。2023年の1月、舞台を観にロンドンに行って、その時も美術館や博物館に行きました。昔に触れられる空間が、好きですね。先月は、サンフランシスコのMOMA(近代美術館)に行って来ました。
─ そんな宮沢さんから見て、東急歌舞伎町タワーのアートはどうでしょうか?
宮沢:美術館に行くことだけがアート鑑賞ではなくて、東京都の中心、新宿にふらりと来てアートが見られるって、すごくいい刺激だと思います。
─ このタワーは複合施設なので、いろいろ楽しめますよね。古田さんは新宿との縁がありそうですが、新宿は古田さんにとってどんな街ですか。
古田:大阪から東京へ出てきて初めて立った舞台が、新宿シアタートップスという小劇場でした。その時はお金がなくて、ホテルも取れなくて。みんなは知り合いの家に泊まっていたけれど、オイラはサウナで雑魚寝。当時は新宿で暮らしていたようなものでした。
─ 想い出の街ですね。
古田:歌舞伎町のランドマーク的な建物・風林会館があって、コリアンタウン、チャイナタウンがあって、やんちゃな人たちもいて。その頃と比べたら平和になったよね。
宮沢:そんな時代があったんですね。
古田:でも、今はきれいになりすぎ(笑)。当時は、スーツのオジサンと金髪の若者の街だったけれど、今は普通に若い子たちがたくさんいる。だから、オイラみたいなオジサンはお呼びでない感じがするよね。当時の混沌とした街の感じは、それはそれで面白かったんですよ。
でも、まだまだ楽しいところはあって、大ガードを越えたらションベン横丁(現在の通称は、思い出横丁)があるし、南口のほうにもね……って飲みの話しか出てこないな(笑)。
─ 街は飲食店で成り立っていますから(笑)。
古田:そうそう(笑)。この東急歌舞伎町タワーができたことで、さらに新しい人の流れができたら、これまでとは違う街になるだろうしね。オイラたちの世代は、歌舞伎町で青春を送っていた人も多い。その人たちが、また行ってみるかってなったらいいし、そこでオジサンたちと若い世代たちの融合というか、出会いがあれば楽しくなるよね。
─ 世代間の交流ですね。
古田:今は、若い人たちのオジサンオバサン離れが激しいけれど、昔の想い出話(その時代やその人の経験)を聞くのって楽しいと思うんですよ。ごく身近な人たちだけと会っていても世界は広がらない。オイラたちも、20代の人たちの話を聞くの面白いしね。
宮沢:僕も、古田さんをはじめ『パラサイト』の共演者のみなさんからどんな話を聞けるのか、すごく楽しみにしています。
THEATER MILANO-Za公式サイトにてその他のエピソードも公開中▼
古田新太・宮沢氷魚、舞台『パラサイト』でアクションに挑戦!?
協力:東急歌舞伎町タワー「JAM17」
スタッフ
古田新太
ヘアメイク:NATSUKI TANAKA
スタイリスト:KEISUKE WATANABE
宮沢氷魚
ヘアメイク:Taro Yoshida(W)
スタイリスト:Masashi sho
文:新谷里映
写真:平安名栄一