東急歌舞伎町タワーから一望できるのは、「古さ」と「新しさ」が入り交じるオーガニックな街並み
― 実際に東急歌舞伎町タワーを訪れてみて、どんな感想を持ちましたか?
コムアイ:想像していた以上に建物が大きくてびっくりしました! エレベーターでどんどん上階に上がっていく感じとか、東京タワーに初めて昇った時のことを思い出しましたね。高層階から新宿の夜景を見下ろすと、高層ビルが立ち並んでいるところはすごく明るくて、対照的に御苑とか住宅街とか暗いところもあって。そのコントラストを線路が貫いていたり、夜の駅はホームだけ光ってたくさんの人がいて豆粒のように見えたり、ジオラマみたいでワクワクしました。
― 特に印象に残ったのは?
コムアイ:館内に飾られたアートですね。とにかく見るところが満載で驚きました。特に、劇場にあるSIDE CORE(「都市空間における表現の拡張」をテーマに活動する高須咲恵、松下徹、西広太志によるプロジェクト)と「しょうぶ学園」(1973年に鹿児島で開設された知的障がい者支援センター)とのコラボレーション作品が良かった。
細かい柄や模様を反復させている絵画を眺めていると、そこに街が広がっているように感じて、迷子になったように思えるのが面白いなあと思いました。
― とても興味深いです。
コムアイ:床に巨大な手を描いた『Patchwork my city』という作品もよかったです。劇場のホワイエ床面タイルを削り出して手のシワや指紋などを表現しているのですが、それが街や路面を描いた地図みたいになっているんですよ。東京の街並みって、場所によっては古くて入り組んでいるじゃないですか。碁盤のように区画整理された街と比べると、アリの巣のように有機的な印象がある。
東京や新宿って実は古い街であるということを、このバキバキに新しいビルで再認識するのも不思議な気分にさせられますね。
「よくわからないものは、よくわからないまま存在してほしい」 多様性を受け入れる新宿の包容力
― 新宿は、コムアイさんにとって馴染みの深い場所ですか?
コムアイ:以前新宿区に住んでいたことがあって、その時にすごく好きになりました。今、世の中ってどんどんブリーチされていっているというか……理解されないもの、「怖い」とか「気持ち悪い」と思われてしまうものを排除しようとする流れにあるじゃないですか。例えばタトゥーとか、マイノリティとか、それこそ私たちアーティストも、排除される側に含まれてしまうかもしれない。とにかく、危なっかしいもの、よく分からないものがない世の中からは、ポップカルチャーすらも生まれてこなかったと私は思っていて。ある意味、「土壌」みたいなものだと思うんですよ。そこから芽が出て花が咲く。その花だけ摘み取り、「キレイだよね」と愛でる行為はなんか違うんじゃないかなって。
― とてもよくわかります。
コムアイ:とにかく「変な人」が容易に歩けない時代になりつつある気がするんです。でも、新宿はまだまだ変な人が、変なままでいられる街だなって(笑)。そういう包容力を新宿からは感じますね。セクシャリティも、国籍も、年齢も、色々でいい。多少クセがあっても、ちょっとダメな人がいてもいい。なんで新宿は、未だこんなにも多様性に富んでいるんだろう? と思いますし、ホテルもそういう場所であってほしい。お金持ちだけが来る場所じゃなくて、いろんな人が行き交い交流が生まれる場所に、東急歌舞伎町タワーがなってくれるといいなあ。
― コムアイさんは、新宿や歌舞伎町とご自身にどんな「つながり」を感じますか?
コムアイ:昨年、インドへ行ってきたんですよ。向こうでいくつかの少数民族を訪ねたり、お寺のお祭りに参加したり。とにかくインドは人が多く、みんながウワーッと集まって一緒に祈ったり騒いだり、とにかく賑やかだけどそこには敬虔な気持ちもちゃんとあって。そういうカオスな光景に衝撃を受けて戻ってきたんですけど、帰国して花園神社の「酉の市」へ行ったときに、一緒にインドへ行った友人の一人が「これってインドじゃん!」と言い出したんです(笑)。そうかあ、あたりまえに思っていたけど、実はすごいことが起きているかもしれない、と思って。
― 新宿、歌舞伎町とインドに共通点を見いだしたわけですね。
コムアイ:新宿って飲み屋街も御苑もあり、ちょっと足を伸ばせばコリアンタウンもある。古いものと新しいものが混じり合い、エリアによって全然違う雰囲気があるのに、当たり前のように隣り合わせになって存在している。人によっては新宿も、インドと同じように「対極が入り混じってカオティックな街だな」と感じるかもしれない。だからこそ、弱者を守る仕組みが必要でもあります。日々、支援や自治に取り組んでくださる方々には、本当に頭が上がりません。今後も民間と行政が一丸となって、「弱者に優しい新宿」であり続けてくれたらいいなあ!と思います。
Text:黒田隆憲
Photo:Sato Ryo