大人、子ども、性別…… 舞台で社会のピラミッドを具現化
― シェルカウイさんはこれまでも『テヅカTeZukA』(2012年)や『プルートゥ PLUTO』(2015年、2018年)(原作:『PLUTO』浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース 監修/手塚眞 協力/手塚プロダクション)で日本の漫画を題材として取り上げていますが、なぜ今回『エヴァンゲリオン』を舞台化しようと思われたのでしょう。
シェルカウイ:『エヴァンゲリオン』には僕の中につねに存在する「人間の本質とは何か」という問いの答えがたくさん散りばめられているからでしょうね。まだ幼い頃、世界が嘘に満ちていると思っていたときに、日本のアニメや漫画で描かれていることこそが僕にとっての真実だったんです。今回、人生において大切な作品のひとつである『エヴァンゲリオン』を舞台化することで、社会や大人が無意識に子どもたちにかけているプレッシャーや戦争への恐怖、悲劇などを具現化していければと考えています。
― 『エヴァンゲリオン』の他に類を見ない世界観が、舞台でどのように表現されるのか多くのファンが期待を寄せています。――窪田さんと石橋さんは現時点で作品とどう向き合われていますか?
窪田:今回の稽古で、舞台は“何もない空間”なのだと再認識しています。役者って、リアルなセットにいるほうがその場に存在しやすいんです。だけど“何もない空間”に立たされると、自分がそこで何を表現できるのか試されているような気になりますし、そこで挑戦することには大きな価値があるとも感じます。しーちゃん(石橋さん)はどう?
石橋:ここ数日で、私が演じるイオリという役に少し近づけたような気もしています。劇中でムーヴメントや歌を担う場面もあるので、まだ身体と内面とが上手くリンクできていない部分もありますが。でも、今は最終形が見えなくてもいいのかな、とも思っています。完成形はラルビ(=シェルカウイさん)がわかってくれているから。
窪田:僕が演じる渡守ソウシは、名前にヒントがある気もします。守って次の世代に渡す役割の人。劇中では大人と子どものちょうど中間というか、狭間に立っている人間ですね。自分と役との共通項は……ないです、というか僕はあまりそこを考えない。
石橋:私は負けず嫌いのところがイオリと似ている気もします。イオリも渡守と同じく大人と子どもの狭間で葛藤する人物。男性によって形成されるピラミッド型の組織の中、女性の司令官として仕事をする状況に揉まれながら、同時に野心を宿している人だと捉えています。
― 今、お話に出たそれぞれのキャラクターからも今作のテーマが垣間見える気がします。窪田さんと石橋さんは今回がまったくの初共演。さらにシェルカウイさんとの創作も初めてですね。
窪田:しーちゃんは、他の誰も持っていない世界を体現できる人ってイメージがありました。映像で活躍している印象もあったから初共演が舞台なのはなんだか不思議な気もしたけど、稽古でもとても多様な表現を見せてくれるよね。
石橋:それはこっちのセリフです! 窪田さんはメジャーなものからアート系までいろいろな作品に出演されていて、最初は少し緊張もしましたが、今は同じ世界を見て共通の言語で語り、ともに舞台に立てる人だという信頼感しかないですね。
窪田:それは僕も感じました。初めて話したときからこの人とは共通言語があるな、って。
シェルカウイ:僕は自分のキャリアがダンスや身体表現から始まったこともあって、作品を創作するときにはまず俳優の身体を見るんです。ふたりの身体性は本当に素晴らしい。舞台上での登場人物の情報は言葉だけでなく身体面に現れることも多いから、これは表現者にとってとても大事なこと。あと、ふたりが自分の身体のことをよく理解しているのも心強いし、毎日一緒に作品を創っていくのがとても楽しい。
窪田:めちゃくちゃ褒めてもらってる(笑)!
石橋:よかった! この作品には高い身体性を持つダンサーの方もたくさん出演されるけれど、そこに臆することなく、今、自分が持っているものを精一杯使って挑戦すればいいのだと腹を決めて臨んでいます。視覚的に面白かったり音楽があったりと、エンタメとしてお客さまに楽しんでもらえる要素もあるし。ラルビが私たち俳優のためにセーフティネットを張った上で挑戦を求めてくれているのもありがたいです。
シェルカウイ:その通り! だからなんでもトライして!
窪田:ラルビとのクリエーションは日本のやり方と根本的に違って、いろいろな枠組みを取り払うのが面白いし、有機的だと思う。ふだんはどうしても俳優やダンサー、殺陣師といった、それぞれの肩書きみたいなものに現場全体が縛られることも多いから。日本の創作だと、メディアに取り上げてもらうのも俳優メインになることが多く、現場全体が俳優ファーストになってしまいがち。だけど、ラルビとの創作ではカンパニー全員がとてもフラットな状態で存在していて、僕は今の稽古の進め方をとても幸せに感じています。
シェルカウイ:そう受け取ってもらえているならよかった! 『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』カンパニー全員のプロフェッショナルで情熱溢れる姿は世界中に誇れるものだと思っています。
窪田:ラルビが『エヴァンゲリオン』のレガシーを大切にしながら紡いだオリジナルストーリーを、オープンマインドな状態で体感してもらえたらと思います。今はどこでもすぐに情報を得られる時代だけど、先入観を持たず舞台独自の作品世界を楽しんでもらえたら嬉しいです。
『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』カンパニーが、劇場に最初の“色”をつける
― 皆さんが創作中の『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』は「THEATER MILANO-Za」のこけら落とし公演です。実際に新しい劇場を体験してみていかがでしたか?
窪田:東急歌舞伎町タワーの全体像がまず凄いと思いました。『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』のために作られた建物なんじゃないかと思ってしまうくらいの近未来感。
石橋:わかります! (飲食エリアの)無国籍なネオンサインもいいですよね。
窪田:あのネオンサインを見ていると海外にいるような気分になるね。劇場内に入ってみてどうだった?
石橋:3月の製作発表で初めて「THEATER MILANO-Za」のステージに立たせていただきましたが、劇場って何かが宿る場所なのだと改めて感じて。すでに歴史がある劇場だと、中に入ったときにそれぞれのカラーというか個性を感じ取ることもありますが、今回は新劇場のオープニング。私たちのカンパニーが最初の“色”をつけると思うと武者震いのような高揚感もあり、ドキドキしています。
窪田:本当にドキドキするよね。思っていたより舞台と客席の距離も近かったし。劇場のこけら落としの舞台に立たせてもらうのは一生に何度も経験できない光栄なことだと思うけど、そういう“枠”を作って自分たちがその“枠”の中で不自由になるのは少し違う気もする。今、僕たちのカンパニーがともに創作をしているこの過程こそが何より素晴らしいものだと思うんです。映像だと同じ作品に出演していても撮影中に一度も会えない人もいます。だけど舞台はある期間、全員が同じ場所に集って、アイディアを出し合いながら創っていくエンターテインメント。僕はこの共同作業にカンパニーのみんなと一緒に関われていることに、もっとも大きな価値を見出しています。
シェルカウイ:ふたりが話してくれたことに同意しかないです。東急歌舞伎町タワーの外観デザインが醸す近未来感には気持ちが上がるし、同時に何かに守られている安心感を得られる建物だとも感じます。新劇場のオープンと僕たちの『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』の開幕を一緒に迎えられるなんて、まるでクリスマスと誕生日が同時に訪れるようなワクワク感ですしね。お客さまにふたつのスペシャルなプレゼントを渡せるよう作品を練り上げていきたいと思っています。
THEATER MILANO-Za公式サイトにてその他のエピソードも公開中▼
『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』は“情報なし”で楽しんで|窪田正孝、石橋静河、シェルカウイにインタビュー
『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』
[東京公演]
公演日程:2023年5月6日(土)~5月28日(日)
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)
東京公演主催:Bunkamura、TSTエンタテイメント
チケット:S 13,000円/A 9,500円(税込・全席指定、オリジナルラベルのペットボトル飲料付き)
[長野公演]
公演日程:6月3日(土)・4日(日)
会場:まつもと市民芸術館
お問合せ:サンライズプロモーション北陸 025-246-3939(火~金12:00~16:00/土10:00~15:00 日祝月曜休業)
長野公演主催:サンライズプロモーション北陸
[大阪公演]
公演日程:6月10日(土)~19日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00 日祝休業)
大阪公演主催:サンライズプロモーション大阪
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企画・製作:Bunkamura
URL:Bunkamura / THEATER MILANO-Za
文:上村由紀子(演劇ライター)
写真:平安名栄一