あらゆる価値観が交差する歌舞伎町に集う次世代の才能たちの、過去・現在・未来に迫るインタビューシリーズ「NEXT UP!」。
第三回は、シンガーソングライターの大東まみが登場。「弱さも醜さも隠さず、飾らない想いを楽曲で届けたい」と語る彼女の、創作の原点とは? 2025年9月20日にシネシティ広場で開催された「Kabukicho Street Live Fes.」に出演した彼女に、話を聞いた。
<NEXT UP!的 推しポイント>
- 憧れを憧れのままにしない行動力
- 自分の殻を破ることを躊躇わない表現者としての資質
- 現代人の「居場所」になる、リアルな楽曲

大東まみ(だいとう・まみ)
聴く人の心をそっと包み込み、時に力強く背中を押す、優しさと強さをあわせ持つ、唯一無二の歌声のシンガーソングライター。「“いい子”にしている女の子の、誰にも言えない本当の気持ちを歌う」をコンセプトに等身大の言葉で心情を描き出す。
⼩学⽣のころ聴いた YUI のアルバムに感銘を受け、独学でギターの弾き語りを始める。⾼校 3 年⽣で進路を決める際、「本気で⾳楽がやりたい」と決意しシンガーソングライターの道へ。その頃からオリジナル曲の制作に取り組み、⼤阪・堺の三国ヶ丘 FUZZ などのライブハウスに出演。2024年、J-WAVE「ギタージャンボリー」出演オーディションでグランプリを獲得し、両国国技館のステージへ。2025年3月には “miwaの日” 公認路上ライブ祭りに出演し、miwaと「ヒカリへ」を共演。同年4月に投稿した一発録り歌唱のショート動画が大きな話題となり、わずか半年で Instagramフォロワー3.7万人、TikTokフォロワー15万人を突破。
さらに同年9月には「Augusta Camp 2025」のオープニングアクトとして、ぴあアリーナのステージに立ち、堂々としたパフォーマンスで存在感を示すなど着実にステップアップを果たしている。2025年11月5日最新デジタルシングル『アヒル』をリリース。
—Beginning—
自他共に認める「恥ずかしがり屋」がギターを抱えて歌い出すまで
─ 幼少期は、どんな子供でしたか?
すっごくシャイでした。恥ずかしがり屋で、とにかく目立ちたくなくて。幼稚園の先生から「照れ屋でがんばりやさんのまみちゃん」とお手紙をもらったことをよく覚えています(笑)。ひとりあそびが好きで、泥団子を作ったりしているような子どもでしたね。
─ 音楽を好きになったきっかけは覚えていますか?
父が音楽好きでギターを弾く人だったので、思い返すと自宅や車で音楽を聴く機会が多かったと思います。自然と、小学生のころには自分から積極的に音楽を聴くようになりました。当時はPSP(PlayStation Portable)に曲を保存してリピートしていましたね。歌っているアーティストのことはよくわかっていないけれど、家にあったCDをひたすら聴いて…という感じで。
当時は夏川りみさんの『涙そうそう』と、DREAMS COME TRUEさんの『大阪LOVER』が大好きで、バスに乗っている間はこの2曲を延々リピートしていたのを覚えています。
─ 歌うことも、当時から好きだったのでしょうか。
好きでした! でも恥ずかしがり屋だったので、人前で歌うことにはすごく抵抗があったんです。人に見られたら恥ずかしいけれど、やっぱり音楽は楽しくて大好きで、歌うことが気持ちよかったんだと思います。
─ そんなシャイな少女が、やがてライブハウスのステージに立つようになりました。契機はYUIさんのアルバムだそうですね。
姉がレンタルショップで借りてきたYUIさんのCDを聴いて、すごく感動して。私も楽器を弾いてみようと、父の部屋にあったギターを使って練習を始めました。初めて弾き語りをしたのが『CHE.R.RY』、その次が『Good-bye days』でしたね。


父に「楽譜を買って欲しい」とお願いして、わからないところは教えてもらいながら。でもやっぱり恥ずかしくて、家に誰もいない時間帯を狙って練習していました。弾き語りをするようになって「私は歌が好きなんだ」と、改めて自覚したことを覚えています。
─ 高校生のころから積極的にライブ活動を始めていたそうですが、その頃にはもう人前で歌うことの恥ずかしさは克服していたんでしょうか?
実を言うと、けっこうずっと恥ずかしかったんです…。ライブ活動を始めて1年くらいは恥ずかしかったですね。特に恋愛の曲を歌っているときは「私は何を聴かせているんだろう…」という気持ちになってしまって(笑)。
お客さんがちょっとずつ増えてきて、自分の歌を聴いてもらえている感覚が湧いてきたことで、徐々に恥ずかしさも和らいでいきました。

—Essence—
「いい子」を抜け出して、むき出しの想いを歌に。取り繕わない表現を大切にしたい
─ 今は、どんな気持ちでステージに立っていますか?
とにかく楽しいです。ライブが本当に好きで。この気持ちは、シャイだった頃も今も変わりません。
楽曲の制作はただただ地道な作業。私自身も正解がわからないなか、暗闇でもがいているイメージなんです。そんなふうにしてやっとできあがった曲が、ステージからお客さんに届いたとき「やっぱり作ってよかった」と感じます。この瞬間があるから、歌い続けられるのだと思います。
─ 「今、届いた!」と手応えを感じるのはどんなときでしょうか。
私のファンの方は、ライブ会場やSNSで近況報告をしてくださる方が多いんですよ。そう言えばこの前のライブでも「今日仕事辞めるって言ってきました!」って。
─ なかなか重大な近況報告ですね…。
私も「大丈夫!?」って(笑)。そのうえで、「(大東さんの)この曲を聴いてがんばろうと思った」と伝えてくださるのがありがたくて。ファンの方の人生と私の曲が重なっていることを実感しますし、音楽活動をしていなければ得られなかった出会いと経験です。
─ 楽曲制作の際にはどんなことを意識していますか。
私は自分のことをさらけ出すのがずっと苦手で、特に弱い部分や、醜さを人に見せたくない気持ちが強くて…。私生活ではいつも「いい子ちゃん」でいようとしていた自分がいます。そしてある時、曲のなかでも「いい子ちゃん」を演じていたことに気がついたんですよね。
それだとやっぱり、おもしろい音楽は作れないんですよね。弱さは誰にでもあるもので、私のなかの醜い部分を見せないと、聴く人が自身を重ねられない。それに気づいたからこそ、「いかに取り繕わずに表現するか」をこの1年は注力しています。ついつい、気を抜くとまたいい子を演じてしまいそうになるのですが…(笑)。
私がかっこいいと思うアーティストは、みなさんステージで「むき出し」の人ばかりなんですよ。そういう音楽が好きなら、私もそれしかできないなって。でなければ、続けていけないとも思ったんです。
かつては、今と正反対の「健気で可愛らしい女の子」を表現するような曲を作っていた時期もありました。けれどどこか、本来の自分との距離を感じていて。そのキャラクターでやり切れたらそれはそれで「本物」だと思うのですが、私は乗り切れずに虚しくなってしまった。私が気に入っている私でいられないことに、寂しさを感じていました。
だから今、言いたいことを音楽にできているのはすごく楽しい。そんな楽曲を好きになってくれる人、共感してくれる人がいるって、なんだかすごく「生きてる」感じがします!


—Future—
寂しさや生きづらさを抱える人の居場所になるような音楽を。
─ 11月には、シングル『アヒル』がリリースされます。
『アヒル』は、誰にもわからなくてもいいから、とにかく自分の気持ちを言葉にしたいと書き出したのが始まりでした。ある種自分勝手な曲ではあるのですが、だからこそリアルな感情が表現できたと思っています。
あの人にはこれがあるのに、私にはない──そんな嫉みからスタートしている曲で。でも、どれだけ弱い手札しか持っていなくたって、それで挑んでいくしかない。自分だけは最後まで自分の可能性を信じていないといけないし、信じたいという気持ちを歌にしました。この曲が今、自分の未来を疑ってしまうような状態にいる人たちの、力になればうれしいです。
─「Kabukicho Street Live Fes.」への意気込みはいかがでしょうか(※取材は本番前)。
私自身が楽しんで、自由に表現するのが、今の大きなテーマ。ストリートライブということで初めて観ていただく方もたくさんいらっしゃると思いますが、なにか一曲でも、一言でも、つながれる瞬間があればうれしいです。一生懸命歌います。
─ シンガーソングライターとして目標にしているステージはありますか。
今年4月に開催された、前回の「Kabukicho Street Live」の企画で、Zepp Shinjuku (TOKYO)で歌う機会がありました。今度は、そこでワンマンをやりたい! そして、いつかホールツアーをするのも目標です。私が今、取り繕わずに作った曲に共感してくれる方々は、直接会うことがなかったとしても、とても特別な存在だと思っています。似たもの同士のような、仲間のような。そんなみなさんと、全国各地のホールで会える日を夢見ています。
─ この先、どんな大人になりたいですか?
「なんでも楽しんでやれる大人」でしょうか。誰でも大人になるにつれて、「こなす」ことが上手になるものですよね。私もそうで、私生活でもライブでも「やり方」をだんだん覚えていっている。でも、自分で作った型にはまって音楽がつまらなくなってしまったら嫌だな、という気持ちもすごくあって。だから、どんなときも新鮮な気持ちでいられるように、楽しい気持ちを忘れずにこれからも音楽に取り組みたいです。
─ 最後に、大東さんが歌を歌う理由について、改めて今の考えを教えてください。
やっぱり、同じ思いをしている人とつながりたいのだと思います。振り返れば小さなころから、寂しさのような、生きづらさのようなものがずっとありました。そんな気持ちを抱えている人は、きっとたくさんいるのではないでしょうか。私自身が思いを包み隠さず届けて、みなさんが自分を偽らずにいられる、居場所になれたらいいなと思います。


おだやかな語り口から覗かせる、熱くまっすぐな想い。かつては恥ずかしがり屋だった少女は今「この先で、もっともっとたくさんの人と出会える。根拠はないけれど、そんな期待もあるんです」とにっこり笑う。
東急歌舞伎町タワー前の特設ステージで行われた「Kabukicho Street Live Fes.」では、ファンだけではなく通りすがりの人々も、彼女の歌声に足を止めて聴き入っていた。彼女自身が音楽に導かれて一歩を踏み出したように、彼女の歌声もきっと、誰かの道標になっていくのだろう。
Information
■2025年11月5日(水)
大東まみ「アヒル」Digital Release
Streaming&DL:https://ssfuga.lnk.to/ahiru
大東まみ – アヒル (2025.9.6 Augusta Camp 2025 at ぴあアリーナMM)YouTube (11月5日(水)21:00公開)
■2025年11月22日(土)
大東まみ 弾き語り one man-live
『Whisper to You vol.3』
(東京都渋谷区代々木1丁目30-1 代々木パークビル B1F)
時間 open/start 17:30/18:00
来場チケット 前売 ¥3,500(+1drink別) ◆学割 / U-18割あり
購入URL:https://tiget.net/events/410677
■2025年11月29日(土)
大東まみ 弾き語り one man-live
『Whisper to You vol.4』
場所 Live & Kitchen 歌う魚
(大阪府大阪市中央区東心斎橋2-8-9 日宝コア笠屋町ビル4F)
時間 open/start 17:30/18:00
来場チケット 前売 ¥3,500(+1drink別) ◆学割 / U-18割あり
文:徳永留依子
写真:山口こすも