新・歌舞伎町ガイド

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歌舞伎町と音楽/アートが繋がった新しい祭りのはじまり『あーとの禱り』

DATE : 2023.02.22

新宿・歌舞伎町の真ん中に位置するシネシティ広場。行き交う人々の多さにかけては世界でも有数であろうこの広場で、1月21日から2月5日まで街とアートの共存を目指すライブエンターテインメントイベント『歌舞伎町「あーとの禱り」』が開催された。

歌舞伎町商店街振興組合の主催で、バーチャルとリアル双方の演出で五感に訴えかけて「街」と「アート」の融合を実現させようという試み。期間中はアートインスタレーション集団「ミラーボーラー」が手掛けた巨大な櫓と立体オブジェが設置され、ただでさえ賑やかな広場にグッと「祭り」のバイブスが注入された。

週末には櫓をステージとして、DJやアーティストたちがパフォーマンスを披露。1月28日(土)は「ボカロP」、29日(日)は「PsyTrance」と、それぞれコンセプチュアルなラインナップで大いに盛り上がった。

翌週の2月4日(土)、5日(日)はノージャンルで豪華なアクトが集結。東洋一の繁華街にある広場、しかも入場無料というこれ以上ないオープンな状態で行われた祭りでは、一体何が繰り広げられたのだろうか。

街の可能性とエネルギーに満ちた夜

16:20 城品萌音

『あーとの禱り』を締めくくる2日間は城品萌音のDJからスタート。DJ以外にもファッションモデルやイラストレーター、ラジオパーソナリティーなどの多彩な顔を持つマルチプレイヤーだ。テックハウスを中心に自作のトラックも織り交ぜながらプレイし、歌舞伎町をクールなグルーヴで満たしていく。

このイベントはクラブでのパーティーと違い、音楽目当ての人だけでなく偶然居合わせた通行人の存在が大きい。少し前に比べると人通りも戻ってきており、特にトップバッターのタイミングではそもそもここで祭りが開催されていること自体を知らないさまざまな人々が広場にいた。

DJブースが置かれている櫓の裏には、ライブハウス「新宿BLAZE」に入場するための列に並ぶ人々。大きなぬいぐるみを抱えながら、父親に肩車されている女の子。初めは大きく鳴らされるダンスミュージックに少し戸惑いながらも、城品のDJが進むに連れて誰もが肩を揺らすようになっていく。まさに「街」と「アート」の境界線を崩すようなプレイだった。

「最初はちょっと人がまばらだったんですけど、少ししてミキサーから顔を上げたらたくさん集まってくれていたので、うれしかったです。いままでにもサマソニとかDJバスとかで、通りがかりの人に向けてDJしたことがあるんですけど、反応してくれるとすごく楽しいんですよね。新宿にはこれまであまり馴染みがなくて、今日もここに来るのに迷っちゃったんですけど、今日で仲良くなれた気がします!」

17:00 みんなのきもち

続いてはトランスパーティークルー「みんなのきもち」が登場。神奈川県の真鶴町や相模湖などの各所で野外レイブをオーガナイズし、トランスを軸としながら実験音楽からボカロまでを網羅する独自のスタイルを貫いている。徐々に日が沈んでいくなか、スペイシーでサイケデリックなトラックを畳み掛ける。赤や緑の照明も相まって、見慣れた歌舞伎町の光景を非日常が侵食してくるようなワクワクに溢れていた。

「ビルに囲まれてやってる感じがすごく良くて、ここに合うような曲を選んで持ってきました。ハードウェーブっていうジャンルの曲が中心だったんですけど、いろんなアーティストのジャケットに新宿のネオン街の写真がよく使われているんです。新宿とかの風景からインスピレーションを受けているアーティストがすごく多いんですよね。普通に生活している僕たちは気付かない魅力というか。もし、僕たちがこの場所でパーティーをやるなら海外からハードウェーブのアーティストを呼んで、そういう街の魅力をあらためて発信するようなものにしたいですね」

17:40 CAKRA

すっかり日が暮れ、CAKRAにバトンが渡されるとミラーボールが回り始める。2002年にキャリアをスタートさせたベテランDJは、強風をもろともせずアナログレコードをターンテーブルに次々とのせていく。問答無用の4つ打ちでグイグイと会場をひっぱり、「思わず踊りだす」という言葉がピッタリの状態に。曲のつなぎには歓声が上がり、次第に大きくなっていく。終盤はトランシーな要素を強め、ディープなグルーヴが渦を巻いた。

「はじまる前は超緊張してました(笑)。いつも会わない人たちが目の前にいると思うと。でも、かなり盛り上がったんでめちゃくちゃ楽しかったです。持ち時間もいつもより短かったので、盛り上がる選曲にしたから、それもよかったかな。またこういう機会があったらぜひやりたいです」

18:20 yummy

CAKRAの終盤からステージに上がり広場を煽っていたyummyがプレイをはじめると、最初から大きな歓声が上がった。あふれんばかりの人が集まり、手練のDJたちによってボルテージはどんどん上昇。CAKRAと同様、短い持ち時間を一瞬も立ち止まらず、最短距離で走り抜けるようなエモーショナルなプレイが展開し、きらびやかなボーカルやホーンのループがビルに乱反射するたびに熱気が高まっていく。

「歌舞伎町でDJするよと告知したら、歌舞伎町に行ったことがないという人がたくさん来てくれて。私自身も久しぶりに来たんですけど、すごく綺麗になっていてびっくりしました。またここでイベントがあったら来たいというリアクションも多くて、とてもうれしいです。選曲をどうしようか迷っていたんですけど、はじまったら若いお客さんがとても多かったので、そういった方々に刺さりそうな曲をその場で組み立てていきましたね。本当に素晴らしい場所です。ありがとうございました!」

19:00 ROCKETMAN

「無料だとすぐ集まる馬鹿野郎なお前たちが大好きだー!」という愛にあふれるシャウトから始まったROCKETMAN。ブラックビスケッツ「Timing」やSMAP「ダイナマイト」などのJ-POPをはじめ、ジャクソン5もあればTeknovaなどの往年のクラブアンセムも混ざる雑食っぷり。思わず「懐かしー!」と叫ぶ声も聞こえてきた。

「もうすぐ50歳。(深夜ではなく)この時間は助かります」、「飲む気満々でタクシーで来たのに、楽屋に水しかないじゃないですか! 誰か強い酒持ってこーい!」と、サービス精神満点のMCで盛り上げる(その後、無事にウォッカが到着)。もうすぐDJをはじめて20年、どんな現場でもオールジャンルでフロアを沸かせてきたエンターテイナーの面目躍如だ。

「なんか可能性を感じましたね。可能性を感じたせいか、勝手に今後もレギュラーになるってMCで言っちゃいました(笑)。今日やれてよかったです。寒さも感じなかったですよ」

19:45 DRUNKEN KONG

この日を締めくくるのはD.SinghとDJ KYOKOによるDRUNKEN KONG。一転してストイックかつハードコアなテクノが鳴り響く。音の輪郭がシャープで、「聴くこと」自体が快感だ。バキバキのシンセベースもともなって、フロア最前列は恍惚の表情を浮かべながら踊りまくっている。

広場は満員と言ってもいい状態なのに、大きなトラブルもなく進んでいる。みんなが「踊る」というひとつの方向を向いているからだろうか。また、四方をビルに囲まれている関係でひとつ違う路地を挟めば驚くほど音が聞こえてこないのもポイントだろう。熱狂のまま幕を閉じると、名残惜しそうな拍手が二人に送られた。

DJ KYOKO「老若男女関係なく人が集まるっていう、こういうイベントは素晴らしいですよね。実は私、新宿が地元なんです。生まれ故郷でこういうイベントはもっともっとやってほしいし、新宿を盛り上げるお手伝いができて光栄です」

D.Singh「去年、ベルリンのストリートパレードに出演したんですけど、それを思い出しました。すごいエネルギーですよね。自然のなかでやるフェスも多いですけど、都会のど真ん中でビルに囲まれてっていうのは珍しい。DJしながら見上げちゃいましたもん。音楽に詳しくない人が通りがかって入ってこれるのも素晴らしいですよね」