特集

エリア

五感で感じて、楽しめる歌舞伎を──中村橋吾&中村橋三郎インタビュー。「第五回神谷町小歌舞伎」にかける意気込みを語る

歌舞伎町

観る
イベント 東急歌舞伎町タワー
DATE : 2026.09.07
8月14日(金)・15日(土)の2日間、「歌舞伎町BON ODORI」が開催された。その連動企画として、初日14日に行われたのが、成駒屋神谷町一門の中村橋吾と中村橋三郎によるワークショップだ。

「隈取」の化粧や、役者が演技の途中でポーズを決める「見得」など、歌舞伎の基本や見どころを、さまざまな役柄を実演しながらやさしく紹介。歌舞伎を気軽に楽しめる時間を多くの人に提供した。

橋吾と橋三郎と言えば、2027年春に東急歌舞伎町タワーのTHEATER MILANO-Zaでの「第五回神谷町小歌舞伎」の上演を控えている。ワークショップを終えた2人に、「第五回神谷町小歌舞伎」への意気込み、そして、歌舞伎初心者へのメッセージを聞いた。

歌舞伎を身近にする、巻き込み型のワークショップ

― 歌舞伎の基本のキを観客に伝えつつ、観客も「成駒屋!」と大向こうをかけたり、水白粉を塗ってみたりと、実際に歌舞伎の一部を体験できる楽しいワークショップでした。今回の取り組みで、工夫した点やポイントがあれば教えてください。

橋吾:本来歌舞伎をする場所ではなく、東急歌舞伎町タワーの飲食店が立ち並ぶエリアの特設ステージでお客様に見ていただいたので、今回は巻き込み型のワークショップにしてみました。歌舞伎を身近なものに感じていただけたらと思い、「近所のお兄さん」のような、親しみやすさを意識しながら進めました。

新宿カブキhallのステージに上がる中村橋吾

橋三郎:僕は黒衣として登壇し、橋吾さんのサポートをはじめ、ツケを打つ(樫の木の板を拍子木で打つこと)ことなど普段は専門の方がやられることもさせていただきました。こういったイベントは不慣れだったのですが、とても楽しくできました。

黒衣として登壇した中村橋三郎

橋吾:歌舞伎って、基本的に一人ではできないんですよ。橋三郎がツケを打って生の音を入れてくれましたが、それがあるのとないのとでは、歌舞伎らしく見えるかどうかが全然違います。本来はそれぞれの分野の職人さんがいらっしゃって成り立っているのが歌舞伎ですが、今回のワークショップは私と橋三郎だけだったので、従来とはまた違った角度から歌舞伎の魅力を伝えられたんじゃないかなと思います。

「第五回神谷町小歌舞伎」、本格的な劇場公演へ

― 2027年春に「神谷町小歌舞伎」を東急歌舞伎町タワーのTHEATER MILANO-Zaで上演されますが、現在の心境を教えていただけますか。

橋吾:神谷町小歌舞伎というのは、中村橋之助さん、福之助さん、歌之助さんの三兄弟を中心に2023年から始まったもので、2027年春には「第五回公演」をむかえ、THEATER MILANO-Zaでの公演をもって、いよいよ本格的な劇場公演のかたちになってきた、というものです。興行として成り立ってこそ歌舞伎公演だと思うので、「ここまで来たぞ。ここまで来たからにはもっと見せるぞ」という熱意を持って挑ませていただきます。先輩方や師匠から教わった「本物の歌舞伎」は、言葉や国、人種や肌の色を超えた総合芸術だと思っています。人の心を動かすことが、私が目指す歌舞伎です。それが実現できるように修行して精進していきたいです。

橋三郎:僕はまだまだ未熟ですが、親方(八代目 中村芝翫)をはじめ橋之助さん、福之助さん、歌之助さん、素敵な兄弟子がたくさんいるので、その方々の背中を見ながら、日々技を盗んで、いつか日本国内だけでなく海外の方々の心も動かせるくらいの立派な役者になれたらと思っています。

― 歌舞伎町での公演は、訪日外国人が歌舞伎に触れる機会にもなるかもしれません。

橋吾:橋三郎は英語が得意なんですよ。ハワイ公演のときも英語を喋っていて。

橋三郎:違います。ハワイ公演のとき、僕、「This one」しか言ってないです。

橋吾:(笑)。今後、英語も必要になってくるかもしれないですね。新しいものを取り入れながらも、歌舞伎の本質を損なわずに公演ができたらそれはすごい技術だと思うんです。まさに本質を守りながらも多言語での演出をされている舞台公演を観たことがあるのですが、言葉をいろいろと使い分けるのは非常に面白いですし、素晴らしかった。私たちの公演にも同じようなことが近い将来起きるのかなと思いましたね。

「本物の歌舞伎」で、言葉や国境を超えていく

― 成駒屋の伝統を守りながら、今回のようなワークショップなど新しい空間で歌舞伎を紹介したり、新しいことを柔軟に取り入れていこうとする活動の背景にはどのような思いがあるのでしょうか。

橋吾:それはやっぱり私たちが知っている「本物の歌舞伎」だと思います。歌舞伎を身に付けたいし、歌舞伎に挑みたい。歌舞伎の表現で、言葉の壁、人種、国、すべてを超えて人の心を動かしたい。そんな中に、たまにぴりっと洒落が入っているのも歌舞伎の魅力です。歌舞伎ってお客様を決して現実に引き戻さないためのプレゼンテーションなんですよね。惹きつけたうえで、歌舞伎の本質を見せていくことが最も大事だと思うんです。それを実現するために先輩方や師匠の芸を見て自然と追いかけている我々がいる。

追いかけて、追いかけて、追い越すことができなくても、追い越してみたいという思いを、役者誰しもが持っていると思います。「精進」という我々の生き方が自然と原動力に繋がっていると思います。

― 役者としての熱い思いがありながら、今回のワークショップでは観客にやさしく歌舞伎について説明するなど、決してお客さんを置いていかないことも意識されていますよね。

橋吾:おっしゃる通り、役者としての思いだけでなく、お客様にどれだけ楽しんでいただけるかは本当に重要です。すでに歌舞伎を知ってくださっている方はもちろんですが、歌舞伎を見たことがない人たちの前でいきなり歌舞伎を始めたときに、その人たちの心をちゃんととらえるには、相当なエネルギーを伝えなきゃいけないと思うんですよ。

そういう意味では「歌舞伎」という伝統や名前に安堵することは一切ないです。とにかく興味を持っていただく、知っていただく、楽しんでいただく。私自身が歌舞伎好きですから、自分が好きになったものを「こんなにすごいんだよ、こんなに楽しいんだよ」と伝えたいという思いも、原動力に大きく関わっています。

拍手も、声も、“推し”も。歌舞伎を楽しむための入り口

― 伝統芸能は難しそうだと感じている人や歌舞伎をまだ見たことのない人が、歌舞伎を楽しむためのアドバイスを教えてください。

橋吾:まずは拍手してみる、声を出してみる。「わあ!」とか「おお!」とかね。公演中は静かにしなければと思いがちですが、歌舞伎の劇場ではお客様の拍手や声がすごく大事です。お客様も感情表現をしていいということは伝えていきたいですし、それが歌舞伎の醍醐味の一つだと思います。

橋三郎:僕は推しを見つけることが入り口になると思います。たとえば、バラエティ番組を観ていて「橋之助さん、かっこいい!」と思ったとするじゃないですか。橋之助さんを見たいというところから、歌舞伎の公演に来てみる。足を運んでいただけたら、歌舞伎って面白いと気づいてもらえると思います。そこからまた違う推しを発見することによって、また違う公演を見たり、もっと歌舞伎の世界が広がっていったりということにつながるんじゃないかと思います。

― 最後に、これから歌舞伎に出会う方々にメッセージをお願いします。

橋三郎:歌舞伎のことを知らないという方も、予習せずにご来場いただいて大丈夫です。その場で起こっていることを五感で感じて、思ったままの反応をしていただく。そうやってシンプルに楽しんでいただくのが一番だと思います。

橋吾:今、歌舞伎の公演ってイヤホンガイドがあるものが多いんですよ。解説を聞けますし、何も知らなくても楽しめる工夫が凝らされています。だから、何も考えずに飛び込んできてください。私たちが魅せますから。みなさんを楽しませます。

第五回 神谷町小歌舞伎

日程:2027年4月29日(木・祝)~5月5日(水・祝)

会場:THEATER  MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)

出演:中村橋之助 / 中村福之助  / 中村歌之助 /ほか

OFFICIAL SITETHEATER MILANO-Za

公式YouTubeにて第五回公演に向けて密着ドキュメンタリーを配信中

文:飯嶋藍子

写真:谷川慶典

こんな記事もおすすめ