11月20日(土)新宿の「歌舞伎町シネシティ広場」にて、パフォーマンスイベント『歌舞伎超祭』が開催された。オーガナイザーとして、歌舞伎町商店街振興組合常任理事を務めるSmappa!Group会長の手塚マキ氏が参画し、さらにTOKYO2020オリンピック閉会式のキャスティングに携わったOi-chan氏がイベントプロデューサーとして迎えられたこのイベント。DJやポールダンサーなどさまざまなパフォーマーが出演し、久々に歌舞伎町らしさを取り戻した一夜となり、ここではその様子をレポートする。
16時30分、それまでDJブースで会場を盛り上げていたDJ MONDOの投げキスと同時に音楽が止み、演目のスタートが告げられた。トップバッターはダンサー、モデルとして活動するアオイヤマダだ。コスチュームアーティストであるひびのこづえの作品「ROOT」を演じ始めた。
会場には若い男女から親子連れ、ご年配の人までさまざま。静寂が会場を包み込む中、アオイヤマダがカエルに扮して登場し、流れる音楽に合わせて衣装を一枚ずつ脱いでいく。最後には裸に根を生やした姿となったアオイヤマダ。身体1つ、輪郭を持った生身の人間がステージで存在感を放った。
アオイヤマダが演技を終えると、その全身全霊を注ぎ込むパフォーマンスと力強いメッセージに、会場からは感動の拍手が沸き上がり、歌舞伎超祭は最高の形でスタートを切った。なお、アオイヤマダはその後に高村月とのユニット“アオイツキ”で「なにもの。」も披露した。
歌舞伎町の夜空を舞ったのは、同イベントでMCも務めたポールダンサーのKUMIだ。鈴を片手に真っ白な衣装に身をまとい豊穣の女神のような出で立ちで登場。幾重にも折り重なった薄い布が風にたなびく。会場には厳かな音楽が流れ、神聖な空気が作り上げられていた。ちなみにKUMIは、その後にも登場する。その際は真っ白な神官のような衣装から、黒いボンテージ衣装へと変化も交えたパフォーマンスで会場を魅了していた。
ファッショナブルな、それでいて近未来的な恰好をしたバッグを持った2人組と、キャリーケースを持った1人の3人組がステージに颯爽と現れた。「橋本ロマンス×PUMP management Tokyo(TOYA、HIBARI、HOSHI)」の登場だ。ステージをウォーキングし、音楽に合わせてポージングする度に歓声が沸き起こる。こちらは、モデルのウォーキング、ポージング、ダンスが組み合わさった、橋本ロマンスプロデュースによるショー。音はめが気持ちよく、3人の息はぴったり。コミカルな動きに会場から思わず笑顔が漏れていた。驚くことに3人はダンス経験がないとのことだが、まったくそれを感じさせないほどの堂々たるパフォーマンスだった。
セーラー衣装を纏いヴォーギングを踊ったダンサーCHISE NINJAと高村月や、ピンクのツインテールにピンクのビニールのキャミワンピで観客の目線を釘付けにした山田ホアニータも歌舞伎超祭を彩っていく。
新宿の街のネオンを象徴するかのように美しく光るラメの衣装で登場した、愛シャクレ熱(ラブマリアとキリーシャクレイ)、ポールダンス世界チャンピオンの小源寺亮太、小人バーレスクダンサーのちびもえこ、水面のような静けさと激しさを同時に表現し観客を驚かせた色即是空(Rion+陸+Chikako)も続く。
シーナ&ザ・ロケッツの「レモン・ティー」に合わせ、ステージでレモンをカッティングしたスナッチ、鮮やかなブルーの衣装に白いピンヒールが映えた2人組ダンサーのSIS、振袖のような衣装で現れ、最後はふんどし一丁になったブイヤベース、自由自在にボールを操ったフリースタイルフットボールのKanaze+フリースタイルバスケットボールのKENGO、ゴジラ要素を演目に取り入れたヒロスミ&ヨシユキ+Cerestia Grown、清水舞手とUFOの2人のダンスユニットのMASHUFO(清水舞手+UFO) も会場を盛り上げた。
めくるめく押し寄せる煌びやかで刺激的なショーは、感性・感覚を煽り続ける「これぞ歌舞伎町!」というステージであった。
そんな一夜のトリを飾ったのは、ドラァグクィーンのリル・グランビッチだ。
登場するや否やステージが一気にゴージャスに華やぐ。しっとりとした豊かな表情とふるまいで、会場の視線を集める。手拍子が起こり、語り掛けるようなリル・グランビッチのパフォーマンスに、観客も答える形で盛り上がった。
終始盛り上がっていたイベントであったが、その中でも一番の盛り上がりを見せたのは、やはりラスト。リル・グランビッチのいるステージに出演者全員が登場すると、舞台は瞬く間に極彩色に彩られていった。夜を感じさせないその空間は、日本有数の繁華街である眠らない街・歌舞伎町を想起させてくれる。
観客席を自由に渡り歩き、観客も巻き込んでいく演者たち。そして、この場にこれ以上ふさわしい曲が他にあろうかと言わんばかりに流れ始めたのは椎名林檎の「歌舞伎町の女王」。最後には散らばっていた演者がステージに集結し、イベントMCのKUMIが「みなさん、歌舞伎町いかがでしたか」「よい風が吹いています。もっと良くなっていきます」と観客に呼びかける。演者たちが深々とお辞儀、ショーの閉幕を宣言すると広場は拍手喝采に包まれた。
あらゆる物を包み込み許容してしまうかのような懐の深さ、そこから生まれる自由な空気、そして常に五感を刺激し続ける街、歌舞伎町。『歌舞伎超祭』はまさに歌舞伎町を体現した祭りであったように思えた。
イベント終了後、MASH UP! KABUKICHOでは、アオイヤマダ、ひびのこづえ、KUMI、橋本ロマンス、そしてイベントプロデューサーのOi-chanにインタビューを敢行した。
アオイヤマダ
「『私たちは私たち。だから強く生きてほしい』そう思ってパフォーマンスをしました。新型コロナウイルスが広がったことにより“リアル”に人と接することが減り、バーチャルの世界であるSNSの世界で生きている。そこで価値を付けられていくことがつらく感じたこともあり、悩んでいる友達もいた。人間同士ならば、よりリアルに感じるものがあるはずだし、人間だからできることが絶対にあると思い、そういった思いをパフォーマンスとして表現しました。
(ショー『なにもの。』について)今は、自分の“輪郭”がすごくふわふわした時代で、自分を出すことが怖い時代。その中で裸に近い恰好になって、自分の名前を叫ぶことによって、『私たちは何も隠していない』ということを伝えたかったです。『あなたたちも隠さないで生きてほしい』というメッセージを込めて躍らせていただきました」
ひびのこづえ
「歌舞伎町は猥雑感があり、特殊な街。今は整備されて綺麗になり、安心感が芽生えましたが、正直、怖いというのがこれまでの私の中での歌舞伎町のイメージで、あまり足を運んで来なかったです。しかし、今回この街でパフォーマンスを手がけることが決まり、改めて足を運んでみて、場の空間の圧倒的存在は作品にも大きく影響しました。ただ、場に対抗することは考えようがなかったですね。
今回、アオイヤマダさんがトップバッターとしてのプレッシャーがある中で、会場の空間を自分のものにしていて、シンプルにすごいなと感じました。私にとっても。歌舞伎町の中にある空間で『ROOT』を見るということがとても新鮮に感じました。
人は、そこにいることでその空間にはないもの、例えば匂いや温かさなど。そういうものを新しく作り出すことができる。パフォーマーであればなおそれが可能です。今回、人の力で場所がどんどん変化していけるというのを実感しました。歌舞伎町は猥雑な魅力を持ちつつどんどんと変化をし続けていますね」
KUMI
「歌舞伎町はネオンが瞬く色彩豊かな街というイメージがあります。夜も明るく、華やかで輝いていて、歌舞伎町というだけあって“歌舞いている”というのでしょうか、この街で息づく皆さんのマインドの中に粋で色気のあるものを感じます。
そんな歌舞伎町の中で演じるショーを考える時、大切にしたいインスピレーションがありました。ポールダンスという、天に近い場所でパフォーマンスすることを生かして、神聖な気持ち――場が清まるような、厄を祓い、新しい時代がまた始まる、これからもっと世の中が発展することを祈願するようなパフォーマンスをここ歌舞伎町でしたいと思いました。
ポールの上から歌舞伎町に集う人、新宿にいる人、日本中の人、世界中の人たちのご多幸を祈らせていただくことで、わたしも世界と循環するような感覚がありました。お客様のあたたかい愛も感じました。
もうひとつの演目は、ジェンダーを超えた力強いものがやりたかった。あえて男性の装束で祈祷した後、衣を脱ぎ捨て、髪も舞う女性的な姿になる。祓い清めてまた思いっきり艶やかに歌舞き、咲き誇る様に。
私だけでなく、今日のステージに出演していた人たちは性別や概念にとらわれず、自由になりたいものになっていたと思います。
自分が好きだな、魅力的だな、格好良いなと思う姿になる。なりたいものに変身する。
その気持ちを、願いを、表現する。
そのどれもが自分であり、誰もがなりたいものになっていい。
自由に生きたいように生きていい。誰もが思いっきり自分らしく生きてほしいです。」
橋本ロマンス
「歌舞伎町は、良い意味で、いろいろなものがそのままむき出しになっていて、隠していない。それが良くも悪くも、整っていないそのままの状態で、渦巻いている。独特なエネルギーがある街だなと感じます。
その中で今回、私は、ダンスをやったことないモデルたちに演出と振り付けをしてパフォーマンス作品を作りました。バッグを用い、ウォーキングやポージングを取り入れるなど、モデルだからこそできるパフォーマンスを、ダンスと融合し上演しました。
会場がある空間には巨大なゴジラの絵がありましたので、そのゴジラの物語と、最近よくいるという、“社会からはじかれてしまう居場所がない若者たち”。この2つの要素をコラージュして作品に取り入れました。その人はその人としているだけで輝ける。世の中でいわれている良いものに寄せなくてもいい。その人がその人としているだけで価値があるんだよということを伝えたかった。今回はダンスをやったことがないモデルたちのパフォーマンスを手掛けましたが、自分たちなりの輝きがあるということを、パフォーマンスを通じてお客さんに届けることで、再確認してもらおうとしました。自分を信じることができるようにパフォーマンスを上演することをとても意識しました。
そもそもですが、私は学生時代も社会人になってからも『私はいったい何を求められているんだろう』という疑問を抱き続け、どうしても府に落ちなくて、ずっとはてなマークがいっぱいな状態でした。どうしてみんなと同じようにしなくちゃいけないんだろう、自分が幸せである状態ってなんだろう、人に優しい自分ってなんだろうって考え続けていたあるとき、自分自身を愛することが答えだと思ったのです。そうすることで他人を受け入れられる。なぜなら自分自身のことを許すことで他人も許せるから。社会生活の中での不自由さの積み重ねが、肯定的なメッセージの発信につながりました」
Oi-chan
「90年代に歌舞伎町の東宝会館にあったクラブCODEで、毎年イベントをやっていた頃も、ドラァグクィーンやストリートダンサーなどジャンルの異なるパフォーマーを次々に出していくやり方だったので、今回も昔からやってることを再びこの場所でやらせていただいた事に深い縁と意味を感じています。
歌舞伎町のど真ん中の野外ステージという開かれた場所で、通りがかりの人が初めてポールダンスを見たり、パフォーマンスを見たことがない人が生で目撃する事で、何かを感じて何かが変わってくれたらいいなと思います。
アンダーグラウンドに眠る才能を多くの人に見てもらって何かを感じてもらう事を目的にずっとこの仕事をしています。」
<イベント情報>
イベント名: 歌舞伎超祭
日 時: 2021年11月20日(土)16:00~20:00 ※雨天決行
内 容: 特設ステージ上でのダンスやショーなどのパフォーマンスイベント
場 所: 歌舞伎町シネシティ広場 (東京都新宿区歌舞伎町1丁目19)
入場料: 無料
主 催: 歌舞伎町商店街振興組合
後 援: 新宿区
協 力: 東急株式会社、株式会社東急レクリエーション、Smappa!Group
イベントプロデューサー: Oi-chan(OIP)
【出演者】
アオイツキ(アオイヤマダと高村月) / DJ MONDO / リル・グランビッチ / KUMI / 小源寺 亮太 / ヒロスミ&ヨシユキ+Cerestia Grown/ MASHUFO(清水舞手+UFO) / SNATCH / 色即是空(Rion+陸+Chikako) / 橋本ロマンス×PUMP management(TOYA、HIBARI、HOSHI) / ブイヤベース / 山田ホアニータ / Kanaze+KENGO / 愛シャクレ熱(ラブマリアとキリーシャクレイ) / ちびもえこ / CHISE NINJA / SIS / ひびのこづえ 演目「ROOT」
Text:安中智咲
Photo:夢無子